カールグスタフはスウェーデンのFFV社(Förenade Fabriksverken)によって開発された肩撃ち式の携行型無反動砲であり、戦後間もなく開発された兵器でありながら、豊富な弾種とアップデートにより現在も多くの国で運用されている。FFV社は1991年にボフォース社に買収され、その後1999年にボフォース社もサーブ社に買収され、現在はサーブ・ボフォース・ダイナミクス社が製造・販売を行っている。 カールグスタフのプロトタイプは1946年に開発され、1948年にはカールグスタフM1としてスウェーデン軍に採用された。カールグスタフはそれまでの主流だったパンツァーシュレックやバズーカ等のロケットランチャーに比べ初速が3倍程度であり、命中精度及び射程距離で大きなアドバンテージを有していた。そのためカールグスタフM1はスウェーデンだけでなくヨーロッパ各国に採用され、主要対戦車兵器の一つとなっていった。 1964年には現在主流となっている改良型のカールグスタフM2が登場し、M1からの置換えが進んだ。その後1991年にはM2から大幅に軽量化されたカールグスタフM3が登場している。現在までに様々な種類の弾頭が開発されており、非常に汎用性が高いことから世界30カ国以上で採用されるベストセラー兵器となっている。 カールグスタフM2は口径84mm、口径長43口径の鋼製の砲身を持ち、砲腔には24条のライフリングが刻まれている。弾薬の装填及び薬莢の排出の際は砲尾を横向きにスライドすることで解放する。最大発射速度は1分間に6発程度とされる。照準器は倍率3倍のFFV556光学照準器とアイアンサイトを有している。オプションとしてAN/PVS-502ナイトビジョンサイトも取り付けることが可能。本体重量は14.2kg、光学照準器とマウント(足)を装着した状態で15.91kgである。通常は砲手と弾薬手の2名で運用される。 ▲弾薬の装填 カールグスタフは無反動砲の中でもクルップ式と呼ばれるものであり、発射時には大量の発射ガス(バックブラスト)を放出することで反動を相殺する。そのため、後方45°60mの範囲は危険地帯となっており、発射時は後方の安全を十分に確認しなければならない他、室内や掩体壕からの発射は不可能である。 ▲発射時には盛大なバックブラストが発生する カールグスタフM2は日本でも1979年から輸入し、84mm無反動砲の名称で陸上自衛隊に導入され、1984年からは豊和工業によってライセンス生産が行われた。陸上自衛隊での使用弾種としては、対戦車榴弾(FFV551)、榴弾(FFV441)、照明弾(FFV545)、発煙弾(FFV469)及び訓練弾(FFV552)があり、ダイキン工業によってライセンス生産されている。 サーブ・ボフォース・ダイナミクス社ではカールグスタフM2の後継としてより軽量化したカールグスタフM3を開発した他、使い捨て版とも言えるAT4も開発された。 ▲カールグスタフM3 カールグスタフM3は米軍の特殊作戦軍U.S.SOCOMにおいてもM3 MAAWS(Medium Anti-Armor Weapon System)として採用され、陸軍の第75レンジャー連隊や海軍特殊部隊SEALs、デルタフォースなど様々な特殊部隊で運用されている。 また、日本においても平成24年度から84mm無反動砲(B)の名称でカールグスタフM3の調達を開始している。 各種弾頭 HEAT551(FFV551) HEAT551(FFV551) 弾頭は現在使用されているカールグスタフの最も一般的な対戦車弾頭である。HEAT弾頭を有しておりRHA換算で400mmの装甲貫徹力を有する。弾薬は約500gのオクトールと銅製のライナー、8gのテトリルによるブースター(伝爆薬)で構成され、信管は圧電素子を用いたピエゾ信管となっている。 また、この弾頭はロケットアシスト弾頭であり、初速254m/sで撃ち出された後、ロケットモーターにより最大339m/sまで加速する。ロケットモーターは約300gの無煙ダブルベース推進薬が用いられており、飛翔時間は400mで1.3秒、700mで2.2秒である。最大有効射程距離は700mで、通常は静止目標で500m、移動目標に対しては400m程度で運用される。 HEAT弾頭はライフル砲により撃ち出した場合、回転により威力が減衰するため、このHEAT551弾頭ではスリップリングにより回転を打ち消しており、発射後に安定翼を展開することで飛翔を安定させている。対戦車弾頭だが、バンカーなどの強固な固定目標に使用される場合もある。弾頭重量2.4kg、総重量3.2kg。 また、HEAT551から炸薬だけを抜いたTP552(FFV552)という訓練弾も存在する。 ▲HEAT551断面 HEAT751(FFV751) HEAT751(FFV751) 弾頭はHEAT551(FFV551) 弾頭をタンデム弾頭としERAを突破できるようにしたものである。タンデム弾頭により目標がERAを装備していてもRHA換算で500mmの装甲貫徹力を有する。カールグスタフシリーズで現在使用されている対戦車弾頭としては最も強力な物である。 ▲HEAT751弾頭 ▲弾頭飛翔イメージ HEDP502(FFV502) HEDP502弾頭は対人戦闘からコンクリートやレンガの壁、バンカーなどの対物戦闘や対軽装甲車両などを想定して作られた多目的榴弾である。HEAT551等と同じように成形炸薬弾頭を備えているが、弾頭は破片榴弾としての効果も持たせておりソフトスキンに対しても高い効果を発揮する。装甲貫徹力は150mmとそれほど大きくないが、戦車以外の装甲車両の相手ならば十分な能力といえるだろう。 信管は目標に合わせて着発または遅延動作を選択することが可能となっており、装甲車両に対しては着発、建物内の敵を攻撃するときなどは遅延と、いったように使い分ける事ができる。初速は225m/sでHEAT551のようにロケットモーターは持っておらず、射程距離は固定目標で500m、移動目標で300mとなっている。総重量3.3kg、弾頭重量2.5kg。 ▲HEDP502断面 HE441(FFV441) 対人及び通常車両など軟目標を想定した弾頭がHE441である。弾頭にはHE弾頭が採用され、着弾時に爆発し約800個の鋼球と破片を飛散させる。初速240m/sで撃ち出され、最大射程は1300mとなっている。着発モード以外にも空中爆発モードがあり、弾頭の先端部を回すことで爆発のタイミングを調整することができ、任意の距離で空中爆発させることが可能。総重量3.2kg、弾頭重量2.3kg。 ▲HE441断面 ADM401(FFV401) ADM401はフレッシェット弾頭を有する対人用弾頭で、都市やジャングルにおいて近距離での敵部隊制圧用に開発された。ADMはArea Defence Munitionの略。発射後内蔵された約1100本の矢(フレッシェット)が放出され、距離100mで10〜12mの範囲を制圧する。初速300m/sで、有効射程は100m。総重量2.7kg、弾頭重量1.8kg。 ▲ADM401断面 MT756 MT756はバンカーや建物に潜む敵を外から排除するため開発された弾頭で、多発する都市戦闘に対応するため比較的最近開発された弾頭である。MTはMulti Targetの略。 弾頭は先頭にHEAT弾頭、後方にHE弾頭というタンデム式となっており、HEAT弾頭により壁に穴を開け、その後HE弾頭が突入し建物内部に被害を与える。性能としては厚さ30cmのレンガ壁や20cmの鉄筋コンクリート壁を突破する能力を持っており、有効射程は300m。総重量3.4kg。 ASM509 ASM509は建造物を破壊するための弾頭で、MT756同様多発する都市戦闘に対応するため比較的最近開発された弾頭である。ASMはAnti Structure Munitionの略。 弾頭については詳しくは不明だがHE弾頭またはサーモバリック弾頭を有すると言われている。信管は着発及び遅延の2モードを備えているという。 SMOKE469(FFV469) ILLUM545(FFV545) |