Ka-50はロシアのカモフ社によって開発された攻撃ヘリコプターで別名チェルナヤ・アクラ(ブラックシャーク)、西側ではホーカムと呼ばれる。 ベトナム戦争で、ヘリの弱点がテイルブームとテイルローターにあるという教訓に基づき、攻撃ヘリコプター初の二重反転ローターをもつ機体として開発され、1977年にはV-80として設計が完了し、1982年に初飛行した。 最大の特徴でもある二重反転ローターは先に述べた様にテイルローターを排除することで安全性の向上をもたらし、また非常に高い運動性能を得ることに成功したが、技術的に難しいと言う欠点がある。しかしながらカモフ社は伝統的に従来からこの方式のヘリコプターを開発しており、海軍向けのKa-25やKa-27、その他各種民間型で実用機を多数輩出しており十分に確立された技術を有している。 生存性 ホーカムの特徴としてアフガニスタンでの教訓を元に高い生存性を得ている事が挙げられる。 スチール装甲と複合材が機体各部に使用されているため離陸重量は9.8トンに達し、NATO諸国の標準的重機関銃の12.7mm徹甲弾の直撃に耐えることが可能。 特にコクピット周辺は念入りな防弾装備が施されており、複合材とセラミック防弾板による2重の防弾鋼板計300kg以上で囲まれ、100m距離からの23mm弾の直撃に耐えられる。風防とキャノピーは55mm厚の平面防弾ガラスでできており、12.7mm徹甲弾に耐えられるという。 ローターブレードは23mm対空砲弾(HEI)の破裂片にも耐え、小口径弾30発の孔が開いた状態で80時間飛行可能で、スワッシュプレートに大口径機関砲弾2発を喰らっても運転継続でき、ローター・ギアボックスのオイルがすべてロスしても30分間は運転できるという。 当然ながら燃料タンクの防弾装備も重視されており、燃料タンク内部には多孔質材が充填され、タンク外部はセルフシーリング機能を持つカバーで覆われている。排気口には赤外線抑制装置が装備され、墜落時には半引き込み式の前脚と操縦席周囲の構造材が衝撃を吸収する設計となっている。 防御用機材としては、スタブウイングに電子戦機材とチャフ・フレアディスペンサー(カートリッジ128発×4)が備わっており、胴体後部両側面にもフレア放出装備、機首先端、テイルブーム先端、スタブウイング後端にL-150パステルレーダー警戒装置が装備されている。L-140オトクリクレーザー警戒装置やL-136マーク赤外線警戒装置も装備し、連動して自動的にチャフ・フレアカートリッジを一定間隔で放出する。 アフガニスタンでの教訓から、機体の側面には多数のメンテナンスハッチを設けることで過酷な戦場でのメンテナンスを容易にしており、胴体高さが低いため全ての整備は成人男性が立って手の届く範囲で可能。また、全てのシステムは12日間は整備をしなくても稼働出来る設計となっており、基地から遠く離れた場所でも任務を遂行することが出来るという。 世界初の試み ホーカムは攻撃ヘリコプターとしては世界で初めて単座型を採用しており、機体の小型化、軽量化により機動性の向上と被発見率を低下させることに主眼を置いている。 またヘリコプターとしては世界で初めて脱出装置のズベズダK-37-800射出座席が搭載されており、速度ゼロ、高度ゼロからでも脱出が可能なタイプである。脱出時にはローターブレードとキャノピー上部が火薬で吹き飛ばされてから座席が射出される。また、横の扉を外して脱出することも出来る様だ。 一人乗りなためにパイロットの負担が増えるという問題は、電子機器により高度に自動化されたコクピットと、索敵と攻撃指示を地上部隊や別の機に任せることで解決している。 武装 基本兵装は9A4172ヴィキールM(AT-16)対戦車ミサイルを左右パイロンに6発装填のランチャー1基ずつ、80mm対地ロケットS-8を左右内側パイロンに20発装填のランチャー1基ずつ。対地ロケットランチャー4基80発を搭載するパターンもある。 そのほかにイグラ空対空ミサイル4発や、R-60またはR-73対空ミサイル、Kh-25P対レーダーミサイル、122mmロケットランチャー2基、23mm二連装ガンポッド2基、FAB-500通常爆弾、500リットル増槽4個なども搭載できる。ペイロードは最大3トンとなっている。 9A4172ヴィキールM対戦車ミサイルはロシア最新鋭のセミアクティブレーザー誘導式対戦車ミサイルで、最大射程が10km〜12kmと従来の対戦車ミサイルに比べ非常に長い。成形炸薬弾頭により900mmの装甲板を貫通する能力を持ち、初速400m/sで打ち出され最大マッハ1.8まで加速するため、最大射程3.7kmで命中までに21秒掛かるTOWなどに比べると突入速度が非常に速く、撃たれた側は対抗手段を取ることが極めて困難である。 固定兵装として機体右側面に30mm機関砲2A42が1基で、限定旋回式(下方30度、側方5-6度)であり、基本的には機体そのものを目標に向けて射撃する。二重反転ローターは旋回性能に優れるため、旋回式砲塔を積むよりもこの方が速いのだという。この30mm機関砲2A42はBMP2装甲車などに搭載されている物と同じ物で、元々が装甲車両用の物だけに高い攻撃力・命中精度を持っており、AP弾(徹甲弾)の場合初速970m/sで毎分550発、最大射程4000mと、AH-64の30mmチェーンガンより射程、攻撃力などの面に置いて上回っている。ホーカムは対装甲用のAP弾を240発、対人・対物用のHE弾(榴弾)を230発の計470発を携行している。 コクピット&アヴィオニクス
胴体先端にI-25IVシクヴァル昼間用目標捜索・自動追尾光学照準装置が装備され、低光量TVカメラ、レーザー照射装置、FLIR(前方赤外線画像監視装置)を内蔵している。シクヴァルは8-10kmの目標捜索距離を持ち、ディスプレイ上で捜索したい箇所にフレームをかぶせると自動的に捜索を行い、発見した目標を自動的にロックオンし、事前の設定により攻撃開始距離に達すると共に自動的に攻撃を開始することもできるという。 ▲Ka-50(左)とKa-52(右)のコックピット コクピット正面中央部にはMiG-29と同じタイプのHUDが装備され、その下にはCRTディスプレイがある。ヘルメットにはMiG-29と同じヘルメット装着式照準装置(HMD)を搭載し、パイロットが目標を視野中心に捕らえるだけでロックオンすることも可能。 VHFデータリンクシステムが搭載されており、目標データを他の航空機やヘリからデータリンクで受け取り攻撃することも可能となっている。 航法用に衛星航法装置・慣性航法装置、ドップラー航法装置が搭載されており、4チャンネルのオートパイロットにより自動操縦も可能である。 Ka-50のアヴィオニクスシステムは航法、戦闘用併せて5台のコンピューターによって制御されている。戦闘システム、航法データ表示、目標照準などの制御用のミッションコンピューターとして4基のOrbita BLVM-20-751を備え、それに加え火器管制用のBCVM-80-30201を一基備えている。電源供給用として2基の三層交流発電機(115V 400kW)を備え500Wの変換器及び整流器により直流の27Vを供給する。 これらの高度な自動化によりパイロットのワークロードは大幅に軽減され、単座での運用が可能となった。 高い機動性
エンジンはクリモフTV3-117VMA2基(2190馬力)でAH-64の1.3倍ほどの出力を持っており、さらに二重反転ローターはテイルローター機構による動力損失が無く、メインローター出力に通常の10〜15%程度のアドバンテージがある。そして二重反転ローター特性として風の影響を受けにくいため安定性が高く、テイルローター機とは比べものにならない旋回性能を誇っている。ローターヘッドはヒンジレスのセミリジッド型で、3枚の複合材ブレードが鋼製プレートで接続されており、潤滑材が不要な設計となっている。 これらの要素によりホーカムは非常に高い機動性を得ており、例えば宙返りやロールは勿論のこと、機体をターゲットの方向に固定したまま垂直・水平高速機動を行うことで対空砲火を逃れながら目標に火力を集中できる、通称「ファンネル」と呼ばれる特殊機動が可能だという。また、直進時には機体左右の固定翼が揚力の18%を負担するため、優れた高速性能も有している。 エンジンは胴体中央部上方に左右に分かれて配置され、真ん中のローター・ギアボックスを隠すようにしており、片方のエンジンが被弾しても大丈夫な様になっている。この配置はベトナム戦争やアフガン戦争で得られた教訓を元にしており、西側、東側に関係なく近年開発されたヘリコプターはほとんどがこの配置である。 胴体中央上部にはAI-9V APU(補助動力機関)を搭載し、エンジン始動、油圧・電力供給に使用する他、緊急時での凍結防止や自動消火装置、2基のうちの1基のエンジンにダメージがあった場合の油圧低下を防止する為にAPUが補助的に作動する。 バリエーション Ka-52アリゲーターはKa-50を並列副座化したタイプで全天候攻撃ヘリコプターとして開発された。Ka-50よりも高度なセンサー類、アヴィオニクスを搭載し、他のKa-50の指揮官制を行うことが重視された。 機体構造の85%がKa-50と共通で、メイン・ローター・マスト直前のキャビン天井に球形の回転式センサー収容部を持ちシクヴァルのFLIRセンサーなどを内蔵し、マスト頂部にはAH-64DのロングボウFCRような形状のFH-01アルバレット捜索・照準用ミリ波レーダーを搭載する。このレーダーは移動する戦車クラスの目標を30kmで探知することが出来るという。 アヴィオニクスには西側の技術も取り入れられており、フランスのセクスタント・アヴィオニク社が協力している。ヘルメット装着式照準システムとしてTHALES社製TopOwlを備える。2人乗りだが、どちら側からでも機体の操縦が可能で、Ka-50の訓練機としても使用できる。基本的にパイロットは右側で、兵装オペレーターが左側に配置され、射出座席もそれぞれに搭載されている。エンジンは1,863kWのTV3-117VMA-SB3に換装されている。 副座型になったことで重量、空気抵抗が増加しているが、エンジン出力はKa-50より10%以上強化されており機動性に問題はないと見られる。 Ka-50の全天候型のKa-50NはKa-52の単座型とも言える機体で、機首下部にKa-52と同様のFLIRターレットを追加装備しており夜間戦闘能力を得ている。 Ka-50-2 Эрдоган Ka-50-2エルドガンはカモフ社がイスラエル・エアクラフト・インダストリーズ(IAI)の協力を得て開発されたKa-50のタンデム副座型である。NATO諸国向けに開発されたこの機体には西側の技術がふんだんに使われており、ステルス性も意識されている。 トルコの次期主力攻撃ヘリコプター選定の最終選考まで勝ち残り、高い評価を得たと言うが結局AH-1Zに破れた。トルコ以外の各国に売り込みを掛けているが、今のところ採用される気配はない様だ。 スペック(Ka-50)
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