AH-1は米陸軍だけでなく海兵隊でも採用され、海上飛行などを考慮してエンジンの双発化などを行ったAH-1Jシーコブラが1970年頃から引き渡しが行われた。 陸軍のAH-1GがAH-1Fへ遷っていったように、海兵隊のAH-1Jにも発展型改修が計画されエンジン出力を強化し、BGM71 TOWの発射機能が付加されたAH-1Tが開発された。 そのAH-1Tにより高い作戦能力を求め、さらなる発展型として開発されたのがAH-1Wスーパーコブラである。 AH-1Wは全天候型の攻撃ヘリで西側のヘリとしては初めて空対空戦闘、対レーダーミサイルの運用が可能となったヘリでもある。 コクピットはタンデム副座型というのは変化無いが、大幅にデジタル化されておりANVIS ヘッドアップディスプレイシステムと2基の液晶モニターが追加され、FLIRやレーザーレンジファインダーなど様々な情報が表示される。 ▲AH-1Wのデジタル化されたコクピット 武装は従来のTOW対戦車ミサイルに加え、AGM-114ヘルファイア対戦車ミサイルの運用が可能となり、高い対戦車攻撃能力を得ている。従来の70mmロケットの他に127mmロケット弾の搭載も可能となっている。 固定武装として機首ターレットにM197 3砲身ガトリング砲を搭載、これは陸軍型のAH-1Fに搭載されている物と同じで毎分3000発の発射能力を持ち、ヘルメットに連動してターレットが可動するためガンナーが目標の方向を見るだけで照準、攻撃することが可能となっている。 その他に空対空用のAIM-9サイドワインダーAAM、FIM-92スティンガーAAM、サイドアーム対レーダーミサイル、AGM-65マーベリック空対地ミサイルの運用が可能で様々な作戦に投入できるようになっている。 照準システムには、レーザー測距儀やFLIR(前方赤外線画像監視装置)を統合したAN/AWS-1(V)1夜間照準システム(NTS)が搭載され、これらの武装は全天候下での運用が可能である。また目標の自動追尾も可能となった。 エンジンは最大出力1723軸馬力のT700-GE-401ターボシャフトエンジンを双発装備し陸軍のAH-1Fの約2.5倍の出力を得ている。二つのエンジンの内一つが被弾もしくは故障で使用不可能になった場合、そのエンジンを切り離して残ったエンジンのみで飛行を続けることが可能である。2007年頃からは赤外線輻射抑制のため、排気口を横倒しにした新型の赤外線サプレッサーが装備され始めている。 湾岸戦争においてはイラクの悪条件下でも性能を遺憾なく発揮し、97台の戦車を破壊、その他104台の車両、16の掩蔽壕、2基の高射砲陣地を破壊した。 スペック(AH-1W)
1993年にAH-1W近代化プログラムが計画され、それがAH-1Zヴァイパー計画に発展した。 AH-1Zヴァイパーは見た目からするとローターブレードの4枚化くらいの変化しか分からないが、実際には機体構造の約95%が新規開発あるいは改修がなされ、AH-1Wの構造をそのまま使っているのはコックピット周辺構造くらいである。そのためAH-1Zは従来のAH-1とはほとんど別物のヘリコプターと言っても良く、レーダーを搭載していないことを除けばAH-64Dよりも優れた攻撃ヘリコプターと言ってもいい性能を持っている。 ▲AN/AAQ-30 Hawkeye Target Sight System AH-1Zの照準システムには第三世代のロッキードマーチン社製AN/AAQ-30ホークアイ目標照準システム(TSS)が搭載された。TSSは第3世代FLIR(前方赤外線画像監視装置)、低光量カラーTVカメラ、レーザー測距器、アイセーフレーザー照準装置を統合した目標照準システムである。AH-1WのNTSやAH-64AのTADS/PNVSなどの第一世代システムと比較して2〜3倍の捕捉能力を持ち、最大探知距離は35km、識別距離は10km(AH-64Dのレーダー探知距離と同等)にも及ぶという。 ▲AN/AAQ-30 TSSのFLIR画像 ▲約15kmの距離からTSSのFLIRによりビルを視認した画像 FLIRの解像度は640×480、4段階の視野切り替えが可能で、中波赤外線および長波赤外線を併用することで様々な状況下での高い捕捉能力を得ている。低光量カラーTVカメラは解像度が768×494、無段階の18倍ズームが可能で、システム全体は5軸のジンバルによって安定化されている。これらにより目標の探知、分類(装軌車か装輪車か等)だけでなくAH-64Dでは出来なかった遠距離での目標の識別、認識も可能となっている。 複数目標の自動追尾も可能で、動目標で3目標、静止目標で10目標の追尾が可能。 AH-64D等に搭載されるミリ波レーダーは進歩が激しいため、あえてAH-1Zではレーダーを標準で搭載しなかったのだが、これらの第三世代照準システムによりレーダー無しでも高い捕捉能力を得ることに成功した。 標準では搭載していないものの、オプションとしてレーダーの搭載も可能となっている。このAH-1Z用レーダーシステムはAH-64Dに搭載されているミリ波レーダーをベースとしたもので、CRS(Cobra Rader System)またはSCOUTと呼ばれており、ノースロップグラマン社とロッキードマーチン社の協同で開発されている。レーダーはスタブウイング上に取り付けられ、AH-1Zはこれにより実質AH-64D専用だったAGM-114Lロングボウヘルファイアの発射能力を持つようになる。ロングボウヘルファイアはミリ波レーダー誘導の撃ち放しミサイルなため、攻撃後すぐに回避行動に移れる。 CRSは動目標なら8km、静止目標でも5kmの捕捉距離を持ち、100以上の目標を自動で位置、分類を探知し、戦術優先順位を判別してモニターに表示する事が出来るようになる。これはAH-64Dのロングボウシステムには若干劣るがTSSと組み合わせることにより十分な実力を発揮できるだろう。 ▲スタブウイング上に配置されるCRS(Cobra Radar System) 新設計されたグラスコックピットは8×6インチ2基、4.2×4.2インチ1基の計3基の多機能カラー液晶表示装置が置かれ、飛行計器情報、各種システム情報、GPSデジタルマップナビゲーション、戦術状況、索敵・照準情報等が表示される。 中央モニター下にはゲームのコントローラーのようなグリップがあり、照準システム操作、兵装選択から発射までの操作をすることが出来るようになっている。 前後席は基本的に共通設計なためどちらでも操縦、攻撃が可能で訓練も分ける必要がない。 電子機器を動作させるための電源として、28V・400Aの直流発電機を2基搭載し、交流変換器も備える。エンジン上部には補助動力装置(APU)が搭載され、28V・200Aの発電機を動作、エンジンスタートやブレードの折りたたみ等に使用される。また19セル25A/hのニカドバッテリーにより非常時に最低でも20分はシステムを維持することが可能だという。 ▲コックピット、ミッショングリップ 操縦システムは油圧式に安定操縦性増強システム(SCAS)が組み合わされており、4軸デジタル制御自動操縦装置も備えられている。自動操縦制御の機能としては、方位固定、高度固定、速度固定、巡航、ホバリング固定、ホバリング揺動制御、制御力微調整が可能となっている。 また、AH-1ZにはTHALES社製「TopOwl」ヘルメット表示照準システム(HMSD)が採用され、ヘルメットのバイザーに左右に取り付けられた暗視カメラの画像やTSSの赤外線画像の他、戦闘機のヘッドアップディスプレイのように様々な情報を重ねて表示することが出来る。このTopOwlヘルメット表示照準システムはユーロコプター社タイガー攻撃ヘリや南アフリカのローイファルク攻撃ヘリなどでも採用されており、世界11カ国で使用されるベストセラーシステムである。勿論従来通りヘルメットの動きを感知してTSSと連動し、目標に視線を合わせる(HMSDに表示されるレティクルにターゲットを合わせる)だけでロックオンが可能で、機首の20mmガトリング砲とも連動し攻撃が可能である。 AH-64にもIHDSSと呼ばれる表示装置が装備されているが、AH-64の場合片眼でしか見ることが出来ないため視野が狭く不評であった。TopOwlは40度の視野を持ち、両眼で見ることの出来るこちらの方がより使いやすくなっている。 ローターヘッド部はグラスファイバーとエポキシ樹脂の複合材によるヒンジレス・ベアリングレス・ローターハブとなり、運動性能は従来のシーソー式とは比べものにならない程に向上している。また、フライトエンベロープはAH-1Wより80%増加、部品数は全間接ローターヘッドに比べ75%も少なくなっている。テイルローターもチタンの複合材によるヒンジレス・ベアリングレス・ローターハブで、AH-1Wとは反対側に移っている。 ▲AH-1Zの多彩な武装 ロケットランチャーの射撃モードはCCIP(弾着地点連続計算)とCCRP(投下地点連続計算)の二つのモードを備える。CCIPではHMSDにロケットの弾着予想地点が表示され、目標と重なるように発射することで命中する。CCRPモードではあらかじめTSSにより目標をロックオンし、FCSの指示するように飛ぶことで自動的に射撃する。使用可能な弾頭としてはM151・M229破片榴弾、M261多目的HE子弾内蔵弾頭、M255A1フレッシェット弾、M262照明弾、M264煙幕弾等がある。 ▲ヘルファイアを発射するAH-1Z 自己防御システムとしてAVR-2Aレーザー警戒装置、APR-39B(v)2レーダー警戒装置、AAR-47(v)2ミサイル警戒装置、赤外線妨害装置、ALE-47チャフ・フレアディスペンサーを備え、排気口にはIRサプレッサーが搭載されている。オプションとしてALQ-211先進統合電子戦システムの搭載が可能で、各警戒システムが連動し敵レーダー範囲の表示や回避ルートの指示、脅威発信源に自動的にジャミングをかけるなどにより、より高い生存性を実現する。 基本構造としては胴体部がアルミニウムと複合材で構成されており、キャノピーはガラスの半分の重さで17倍の強度を持つプレキシグラスと呼ばれるアクリル樹脂で作られている。防弾性能はメイン及びテイルローターが23mm弾の直撃に耐え、その他は12.7mm弾に耐えられるようになっており、コックピット周辺は衝撃吸収構造が施され生存性が高められている。燃料タンクはセルフシーリング加工によって耐火性が高められており、他にもギアボックスのオイルが全てロスしても30分は飛行可能となっている。 AH-1Zでは低ライフサイクルコストも重視されており、例えばAH-64のローターアセンブリは1250時間毎にオーバーホールが必要で4200時間で寿命が来るが、AH-1Zの複合材ローターシステムは定期修理が不要で寿命が約10000時間にも及ぶという。運用費用はAH-64Aと比較して約40%ほどに抑えられている。 ▲AH-1ZとUH-1Y ▲ブレードは半自動で折りたたむことが可能 ちなみに陸上自衛隊ではAH-1Sの後継機種としてAH-64DとAH-1Zが争われたが、あっさりとAH-64Dに決定した。 スペック(AH-1Z)
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