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AH-64D Apache Longbow

最強の攻撃ヘリコプター

AH-64Aアパッチは湾岸戦争で多大な戦果を上げ大活躍したが、遠距離での識別、捕捉能力の不足などが明らかになった。そこでさらなる戦闘能力が要求されるようになり、AH-64の改修計画が進められる事となった。その結果大幅に戦闘能力が上昇したAH-64Dアパッチ・ロングボウが誕生したのである。

A型からいきなりD型になった経緯はというと、最初に持ち上がった改修計画ではGPSの搭載や通信機器、FCSを強化したAH-64Bが作られることになったのだが、その後ロングボウレーダーや新型ヘルファイア、コクピットの改修などを施すAH-64C/D計画が持ち上がり、AH-64Bの計画もこれに吸収された。名称はレーダーを装備しない機体をAH-64C、レーダー装備機をAH-64Dと呼称していたのだが、その後レーダーを搭載しない機体もAH-64Dと呼ぶこととなった。


ロングボウ・火器官制システム


最大の特徴であるロングボウFCR

AH-64Dに改修された上での最大の特徴がLFCR:Longbow Fire Control Radar(ロングボウ火器官制レーダー)を搭載したことである。
AH-64DのAN/APG-78ロングボウレーダーは周波数35GHz及び94GHzのミリメートル波を使用したレーダーで、ローターマスト上に搭載されている。ミリ波レーダーは戦闘機に搭載されるようなレーダーに比べると、とても短い距離しか探知できないのだが、足の遅いヘリコプターに搭載するならば十分で、さらに非常に高い解像度を得ることが期待出来るため、敵が密集していたりしても個別に探知し攻撃することが出来るのである。

AN/APG-78の最大探知距離は静止目標で6km、動目標で8〜10kmで、90度を6秒でスキャンし、必要ならば45度・30度・15度と細分化して詳細スキャンが可能。そして最大1024個の目標を探知し、256目標を捕捉、装軌車・装輪車・対空車両・航空機・ヘリの5種類に分類分けし、自動的に脅威度の高い順に16目標(ヘルファイア搭載数が16発)を戦術状況表示装置にリストアップして映し出すことができる。

対地目標モードの他には地形プロファイルモードと空対空モードを備える。地形プロファイルモードでは2.5km以内の地形の起伏を測定し、PNVSを補完することでNOE(匍匐)飛行を容易にする。空対空モードも備えており、毎分6回転して360度全周監視する。

ロングボウレーダーの下部にはAN/APR-48Aレーダー周波干渉装置が取り付けられている。AN/APR-48Aはレーダー波をパッシブに捕らえるシステムで、原理的にはレーダー警戒装置と同じ物である。このAN/APR-48Aが一般的なレーダー警戒装置と違うのはあらかじめ最大100種類のレーダー波をプログラム化しておくことで、そのレーダー波の発信源の位置や発信機材を特定する事が出来る点である。AN/APR-48Aで得た情報はロングボウFCRの情報と共に脅威度の判定が行われ、ディスプレイに表示される。そして即座にヘルファイアによって攻撃することが出来るのである。
セットで開発された
▲AN/APG-78ロングボウレーダーとAGM-114Lロングボウ・ヘルファイア

AH-64Aの主武装だったAGM-114ヘルファイアもAH-64Dでは発展型のAGM-114K/LヘルファイアUとなった。特にロングボウレーダーと並行して開発されたAGM-114Lロングボウ・ヘルファイアはAH-64D専用とも言うべきミサイルで、ロングボウレーダーで得た情報を基にして誘導されるミリメートル波アクティブレーダー誘導式である。従来のレーザー誘導のようにレーザー照射し続ける必要が無く、慣性誘導の併用により完全な撃ち放し能力(Fire and forget)を得ており、攻撃後すぐに回避行動に移れるようになった。

AGM-114Kは従来通りのセミアクティブレーザー誘導だが、対妨害性能が上昇したシーカーを搭載しERA対策のタンデム弾頭や発煙の少ないロケットモーターを搭載、射程も9kmに伸びている。

コクピット&アヴィオニクス


第二世代TADS/PNVS
▲アローヘッドシステム

AH-64Aに搭載されていたTADS/PNVSは全天候下での戦闘能力を大幅に上昇させたが、実戦に参加するにつれ解像度不足により遠距離での敵味方の識別が困難であると言う問題が浮き彫りになったのである。そうして第二世代のTADS/PNVSが開発されることとなり、2003年にArrowhead(アローヘッドシステム)が開発された。
比較画像
▲左が第一世代、右が第二世代アローヘッド

アローヘッドシステムでは第二世代FLIR(前方赤外線画像監視装置)と電子式画像安定化により解像度が大幅に上昇しており、識別範囲も従来の1.5倍まで上昇しているという。さらに、新型の多目標追尾システムにより最大6目標を同時追尾することが可能で、そのうちの主目標にサイトを固定し、捕捉することが出来る。システムの耐久性も従来の2倍以上となっており、信頼性も大幅に上昇している。

表示装置も一新されており、従来の接眼式のサイトからディスプレイタイプに変更されたことで、視認性がより一層高まり、照準操作時にのぞき込む必要が無くなったため、機体周囲の状況にも注意を払うことが出来るようになった。
デジタル化されたコクピット
▲左:パイロット席 右:ガナー席

コクピットは大幅にデジタル化されており、表示装置は従来のアナログな計器から二基の単色CRTディスプレイに変更され、非常に見やすくなった。このCRT化を含めた合理化により、コクピット内のスイッチ類は約1200個から約200個まで減少しパイロットの負担も大幅に軽減している。

また、GPSドップラー航法装置も搭載されており、AH-64Aに搭載されている物より10倍以上高速な通信が可能な改良型データモデムも備える。
そして戦術データリンクシステムFBCB2を搭載したことにより、司令部はもとより同じシステムを備える戦車や装甲車、早期警戒機などとリアルタイムで敵味方の位置や各種情報をやり取りできるようになり、戦闘能力を大幅に高めると共に味方への誤射や攻撃目標の重複なども防いでいる。


その他改修点


その他の改修点としてはエンジンが出力強化型のT700-GE-701Cに変更され、故障箇所自己診断機能の強化、コクピット下部の電子機器収容スペースの増大、エンジン排気冷却能力の強化などが挙げられる。

対空兵装としてスティンガーミサイルの搭載も可能になったのだが、アメリカ陸軍の量産機ではこの機能は省かれており、実際には運用されていない。
配備


自衛隊仕様初号機

AH-64Dは日本でも次期主力ヘリコプターとして選定され、2006年1月25日に第一号機が初飛行し、同年3月15日に陸自に納入された。陸自仕様機はAH-64D導入国の中では初めて自衛用のスティンガーミサイル発射機を標準装備しており、生存性が意識されている。最終的にはレーダー搭載機と非搭載機の組み合わせて62機を配備する予定であったが、2007年にボーイングが予定より早くAH-64DブロックUの生産終了を発表したため、13機で調達の打ち切りを決定した。
飛行中のAH-64D

日本では選定にあたってAH-1Zとの比較が行われたのだが、初めからAH-64Dが選ばれる可能性が高かった。何故かというと当時はAH-1Zはまだ初飛行すらしていなかったのと、陸自では部隊内の情報化が進んでおらず、ロングボウシステムを初めとしたデータリンクシステムをライセンス生産することで技術を得たかったのではないかと思われる。

アメリカ陸軍では当初既存のAH-64A全機をAH-64Dに改修し、その内の3割程度がレーダー搭載機になる予定だったのだが、総機数を減らしてほとんどをレーダー搭載機にする事となった。やはりAH-64Dの最大の特徴はレーダーなので、全機レーダーを搭載した機体の方が実力を最大限引き出せるからであろう。

AH-64Dは先のイラク戦争にも投入されイラク軍の地上部隊に大打撃を与えたが、都市での味方部隊支援のために出撃したAH-64Dが携帯対空ミサイルに攻撃されるなど、都市環境下での脆弱性が問題となっている。もともとアウトレンジからの敵戦車部隊攻撃をメインとするように設計されたヘリコプターなので、これは致し方ないことだと言える。しかしながら2003年3月24日の攻撃時には33機中30機が被弾したにも関わらず墜落したのは1機だけで、アパッチの耐久力の高さが証明される形となった。

スペック(AH-64D)
製造 ボーイング
全長 17.7m
全幅 5.2m
全高 4.95m
ローター直径 14.6m
空虚重量 5.3t
最大離陸重量 10.1t
エンジン ジェネラルエレクトリック社製T700-GE-701Cターボシャフトエンジン1409kW(1890shp)×2基
最大速度 水平:276km/h
急降下:365km/h
横・後進:81km/h
航続距離 490km
垂直上昇率 541m/分
ホバリング高度限界 4068m(地面効果内)
2759m(地面効果外)
主武装 M230 30mmチェーンガン(最大1200発)
AGM-114ヘルファイア対戦車ミサイル(最大16発)
ハイドラ70 70mmロケットランチャー(19発×最大4基)
FIM-92 スティンガー(最大4発)
AGM-122 サイドアーム対レーダーミサイル(最大4発)
870L増槽(最大4本)
乗員 2名
最大負荷加重 +3.5G〜-0.5G
採用国 アメリカ
アラブ首長国連邦
イギリス
イスラエル
エジプト
オランダ
クゥエート
ギリシャ
サウジアラビア
シンガポール
日本


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