M1エイブラムズはM60パットンの後継として1972年から開発された戦車で、現在までに数千台が作られており、様々な改良を加えられアメリカ軍の主力戦車として活躍している。 初期生産型のM1では政治的配慮から主砲に105mmライフル砲M68を搭載したが、砲塔は120mm砲の搭載も可能なように設計されていた。これは当初から120mm砲を搭載する予定だったためで、M1A1エイブラムズからはラインメタル社製の44口径120mm滑腔砲M256が搭載されている。 この砲は従来の砲身のようにライフリングが切られておらず、火砲の腔内が平滑になっており、APFSDS弾(装弾筒付翼安定徹甲弾)やHEAT-MP弾(多目的対戦車榴弾)の使用を前提として開発された砲である。 APFSDSは安定翼を持った細身の徹甲弾に、砲身にフィットする装弾筒を取り付けた弾で発射直後に装弾筒が外れ槍のような弾体のみが飛翔していく。この槍のような弾体は炸薬を持たず、その運動エネルギーによって装甲を貫通する。APFSDS弾は1200m/s以上の速度で着弾し、そのような状態になると装甲と弾頭が流体として作用し、ちょうど粘土と粘土をぶつけたような状態になり装甲を貫通するのである。 ▲劣化ウランAPFSDS弾(DU弾) M1A1のAPFSDS弾体は主に劣化ウランによって作られており、日本の90式やドイツのレオパルド2で使用されているタングステンAPFSDS弾体よりも高い貫通能力を持っている。さらに劣化ウラン弾は弾着時に化学変化を起こし発火、3000度以上の高温で焼夷するため高い殺傷能力を持っている。そのためM1は第三世代戦車の中でも最高クラスの攻撃力を持つと言えるが、劣化ウランは微量の放射線を放っており、弾着時の粉塵などを人間が吸い込んだ場合被爆する可能性が高く、各地で社会問題となっている。尚、装填は信頼性を重視し手動装填式となっている。 初期のM1からインテル社製デジタルFCSや第一世代FLIR(前方赤外線画像監視装置)、レーザー測遠器などを搭載していたが、M1A2からは電子機器類を一新して本格的にデジタル化された。 車長用には新たにCITV(独立熱線暗視装置)が搭載され、360°全周監視が可能となり砲手の目標のオーバーライドも可能となっている。これにより砲手は目標の射撃に専念出来るようになった。 IVIS(車両間情報システム)の搭載により大隊内の各車両や敵の位置を共有し、同士討ちを防ぐほか、同じシステムを搭載する攻撃ヘリや装甲車とのデータリンクも可能となった。 ▲FBCB2戦術データリンクシステム 最新型のM1A2SEPでは全てのFLIRは第二世代の物に更新され、昼間/夜間最大交戦距離が30%上昇した。FBCB2戦術データリンクシステムが搭載され、POS/NAV(自己位置測定/航法装置)、GPSシステム、EPLRS(能力向上型方向・位置報告システム)、IVIS等とリンクして、車内ディスプレイにはデジタルマップにより敵味方部隊情報が表示される。車長用にカラーLCDモニターとキーボードが搭載され、戦闘時の部隊間交信や航空支援要請、補給品配送請求、補給品在庫や輸送位置確認などにも用いられる。通信、データリンク時にはSINCGARS(単チャンネル空地両用無線システム)が使用される。 TMS(熱管理システム)も搭載され、電子機器や乗員の保護と共にNBC対策能力も上昇した。 副武装には砲身同軸に7.62mm機銃M240、砲塔上部に車長用12.7mm機関銃M2、装填手用7.62mm機銃M240を装備する。 ▲M1A1HA(ヘビーアーマー) 初期M1の装甲は砲塔・車体前面が複合装甲で、その他は均質圧延装甲の全溶接構造となっており当時から高い防御力が備わっていたが、1988年に登場したM1A1HA(ヘビーアーマータイプ)からは複合装甲のパッケージに劣化ウランメッシュを組み込んだ新型装甲が採用され、大幅に防御力が向上した。湾岸戦争時にはM1A1HA同士で同士討ちをしでかしたのだが、正面装甲は劣化ウランAPFSDS弾の直撃に耐えたというから驚きである。 ▲初期のM1エイブラムズ M1ファミリーの大きな特徴としてエンジンにガスタービンエンジンを採用したことが挙げられる。ガスタービンエンジンは一般的に小型で大出力を持ち、立ち上がりが速く非常に優れた加速性能を持っているが、反面低速時や停止でも高速回転を維持しなければいけないため燃費が非常に悪いという欠点がある。 M1に搭載されているガスタービンエンジンは1500馬力のライカミング社製AGT-1500Cが搭載されており、最高速度は初期型M1で72km/hを叩き出した。しかしながらM1は発展するにつれて増加装甲や電子機器により重量増加していき、最新型のM1A2SEPでは65km/hまで低下している。燃費は非常に悪く、90式やレオパルド2などのディーゼルエンジンと比べ約1.5倍の燃料を消費する。そのため燃料タンクも一般的な第三世代戦車の1.5倍の容量の物を搭載している。 ▲AGT-1500ガスタービンエンジン このエンジンは使用可能な燃料の種類が多く、非常時にはジェット燃料やガソリンなどでも動作する。(但しガソリンを使った場合は25時間ごとにオーバーホールが必要) M1A1からは待機時の燃料の消費を防ぐため、車体後部右にAPU(補助動力装置)として出力5.6kWのディーゼルエンジンを外付けで搭載し、最新型のM1A2SEPでは電子機器への電力供給やバッテリーの充電用に出力6kWのガスタービン発電機を車体後部左側に内蔵している。 近年では都市での戦闘が多くなり、正面だけでなくどの方向からでも攻撃される可能性が高くなったため、これに対応すべくM1に取り付けられるTUSKと呼ばれる改修キットが開発された。 TUSKではサイドスカートにERA(爆発反応装甲)が装備され、車体後部にはストライカーに装備されていたようなスラットアーマーが装備されている。これにより多方向からのRPG等の対戦車兵器に対応出来るようになる。 車長用の12.7mm機関銃はストライカーと同じく遠隔操作の無人砲塔となり、装填手用の7.62mm機銃には装甲板とサーマルサイト(熱線暗視装置)が追加される。 スペック(M1A2SEP)
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