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戦車用砲弾


砲弾は大きく運動エネルギー弾(KE弾)と化学エネルギー弾(CE弾)の二種類に分けられる。KE弾とは内部に炸薬を持たない、いわゆる徹甲弾で、CE弾は榴弾に代表される炸薬による爆発(化学エネルギー)を利用した弾である。戦車用砲弾としてはKE弾のAPFSDS、CE弾のHEATの2種類が主に使用されている。

第三世代戦車の先駆けとして登場したドイツのレオパルド2がラインメタル製120mm滑腔砲を採用して以降、同規格の砲をNATO各国が採用し、現在ではラインメタルの120mm弾薬が西側第三世代戦車標準弾として使用されている。例えば日本の90式戦車では砲身、砲弾共々ドイツのラインメタル社製のものをライセンス生産して使用しており、APFSDSとしてDM33、HEATとしてDM12を使用している。米国でもこれらをライセンス生産したM829,M830を使用していたが、開発元のドイツでは現在はさらに強力なDM63 APFSDSを開発し、米国でもより高性能な弾頭を開発、使用している。
ちなみにこれらのラインメタル製120mm弾薬の特徴として薬莢の大部分が発射時に燃焼するため、従来のように空薬莢が射出されて邪魔になることが無い。

APFSDSとHEAT-MP


APFSDS(離脱装弾筒付翼安定式徹甲弾)

APFSDSは"Armor Piercing Fin Stabilized Discarding Sabot"の略で日本語では離脱装弾筒付翼安定式徹甲弾と訳される対戦車用弾頭。炸薬などを持たない徹甲弾の一種で、その質量と速度(運動エネルギー)によって厚い装甲を貫通する事に特化している。
APFSDS
▲DM33 APFSDSの構造

▲動作イメージ
徹甲弾は装甲を貫徹するために作られた弾だが、弾体をより細くすることによって空気抵抗を減らし弾速と貫通力を向上させ、長くすることで質量を稼ぎ弾着時の運動エネルギーを増加させていった。その結果直径と長さの比(L/D比)は20〜30となり、細長いダーツのような弾体となっていったが、L/D比が6程度以上になると弾体をライフリングによって回転させて安定を得ることが出来ないため、APFSDSでは安定翼によって飛翔を安定させている。当然この形状のままでは砲身から発射することが出来ないため、発射直後に外れる装弾筒(カバー)を付けて発射される。

APFSDSはライフリングが必要ないため砲口内が滑らかな滑腔砲から撃ち出されるのがベストだが、従来のライフル砲からでも発射できるようにベアリングなどを利用したスリッピングバンドで回転を打ち消すものも存在し、ライフル砲を搭載している第二世代戦車でも現在ではAPFSDSの使用が主流となっている。
弾心には強靱で密度の高い金属であるタングステンが用いられるのが一般的だが、アメリカやロシア等では、より低コストで性質的にも優れている劣化ウランが使用されている。
APFSDS
▲装弾筒離脱の瞬間(米M829 APFSDS)

90式戦車などで採用される120mm44口径滑腔砲とDM33の組み合わせの場合、発射時の初速は1600m/s(マッハ5)以上にもなり、距離2000mで500mm程度の鋼鉄板を貫通する。弾心が1200m/s程度以上で装甲に衝突したとき、弾心と装甲は流体のように作用し(粘土と粘土をぶつけたようなイメージ)、装甲側がかなり傾斜していたとしても(80度程度まで)弾かれることなく装甲を貫通する。これにより避弾経始という概念を過去の物にした。

ちなみにドイツの最新型砲弾DM63と55口径滑腔砲の場合は距離2000mで650mm、アメリカが開発中のM829A3の場合、装薬の強化とL/D比約40の劣化ウラン弾心によってなんと680mmの貫徹力を持つと言われている。
APFSDS
▲独DM63(上)/米M829A3(下) より細長くなっているのが分かる

貫徹力自体は同じ120mm用HEAT弾と比べると小さいが、HEAT弾と違って爆発反応装甲複合装甲による貫徹力の減衰が少ないことや、弾速が速く速度減衰も小さいため遠距離でも命中精度を保てるといったことから、結果的に対戦車砲弾としてはAPFSDSがメインで使用されている。
HEAT(対戦車榴弾/成形炸薬弾)

HEATは"High Explosive Anti Tank"の略で対戦車榴弾と呼ばれている。この弾頭は成形炸薬弾頭(Shaped ChargeまたはHollow Charge)と呼ばれるものだが、主に対戦車用として使われることからこう呼ばれている。 HEATはモンロー効果(炸薬を適切な円錐状に配置することで爆発時のエネルギーの約30%が前方に指向する現象)、とノイマン効果(前述の円錐の内側に金属の内張りを施すことで高速のメタルジェットが発生する現象)という二つの効果を利用することで戦車の厚い装甲を貫通する、化学エネルギー弾の一種である。
M830
▲米国製M830 HEAT-MP

▲動作イメージ
HEAT弾頭の構造としては、炸薬の前方に円錐または漏斗状の金属ライナー(主に銅製の内張)が配置された形となっている。炸薬が起爆するとその爆発による熱と圧力によってライナーが変形しメタルジェット(流体金属)が発生、その運動エネルギーによって装甲を貫通する。発生したメタルジェットは3000度以上、7000〜8000m/s(マッハ20以上)の速度となり、120mm砲用HEAT弾頭で600〜700mmの鉄鋼板を貫通、内部を熱と圧力により焼き尽くす。HEAT弾頭はCE弾のため弾速に関係なく常に一定の貫徹能力を持つことから、携帯式対戦車ロケットRPG-7から対戦車ミサイルTOW、ジャベリン、ヘルファイアなどその名の通りあらゆる対戦車兵器に採用されている。HEATの貫徹力はライナーの直径に比例し、対戦車ミサイルなどのHEAT弾頭では1000mm近い貫徹力を持つものもある。

現代の戦車砲用HEAT弾はHEAT-MP(Multi Purpose):多目的対戦車榴弾と呼ばれるタイプが使用されている。これはHEATの爆発エネルギーの約70%が周囲に拡散するというのを利用して、通常の対物・対人用榴弾としても使用できるように調整した砲弾である。ただ、HEATの構造上通常の榴弾より炸薬量が少ないため、都市作戦などでは通常の榴弾が重宝されるようだ。

ちなみにHEAT弾頭はライフル砲で撃ち出すと回転の遠心力によりメタルジェットが拡散してしまい、貫徹力が低下する。そのため、戦車砲弾として使用する場合は滑腔砲との相性が良い。

欠点として爆発反応装甲スラット装甲などによって適切なスタンドオフ距離以外で起爆した場合、大きく威力がそがれる。モンロー/ノイマン効果によって発生したメタルジェットは、太陽光を利用して凸レンズで紙を焦がすのと同じように適切な距離(スタンドオフ)以外では近くても遠くても効果を発揮出来ないのである。また、複合装甲に対してはあまり有効でない等がある。他にもスパイクノーズ部や安定翼による空気抵抗が大きいため、弾速の減衰が大きく有効射程が短いという欠点もある。そのため対戦車攻撃用には専らAPFSDSが用いられており、対戦車榴弾と言いつつも戦車以外の装甲車両や塹壕攻撃用に使用されている。

▲三重弾頭を有している
3BK29 125mmHEAT弾
対戦車ミサイル等では爆発反応装甲対策として、主弾頭の前方に小型の副弾頭を配置したタンデム二重弾頭も主流となってきている。これは前方の弾頭で爆発反応装甲を起爆させた後に主弾頭が突入し装甲を貫徹するものである。これに加え戦車の弱点である上部を狙うトップアタック方式を採用するミサイル(ジャベリンなど)も現れており、このようなミサイルには実質対抗する手段がないのが現状である。

ロシアの戦車用125mmHEAT弾の中には、3BK29などタンデム三重式になっている物も存在している。これは最初の弾頭で爆発反応装甲を突破した後、残り二つで装甲を貫徹するという物で、800mmの装甲貫徹力を有すると言われている。


Photo
Rheinmetall
U.S.Army
General Dynamics

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