レオパルト2はレオパルト1の後継として1977年に採用されたドイツ陸軍の主力戦車である。レオパルト2は120mm滑腔砲や複合装甲、1500馬力のエンジンなどの先進的装備で各国の第三世代戦車の先駆けとなり、70年代に開発された車両ながら現在でも世界最強クラスの戦車として君臨している。スイス、オランダ、オーストリア、スウェーデンなどヨーロッパ各国に輸出されており、現在も発展型が生産、輸出されている。 開発 レオパルト1が登場後の1965年に、当時ソ連が新型戦車を開発中という噂もあり次期主力戦車計画としてアメリカと協同でMBT-70計画が進められていた。MBT-70は自動装填装置や姿勢制御可能な油気圧サスペンション、遠隔操作型機関砲、可変圧縮比ディーゼルエンジンなど数々の新技術を導入していたが、その分コストが高く、共同開発による意見の相違なども発生しており、失敗の可能性が予見されていた。しかしながら両国間の取り決めにより新規戦車の開発が禁止されていたため、ドイツではレオパルト1の改修型としてフェルゴルデーター・レオパルトの名称でポルシェ社によりコンポーネントの研究開発が進められた。結局MBT-70計画は1969年に挫折し、それを見越して開発が続けられていたフェルゴルデーター・レオパルトをベースとし、レオパルト2が西ドイツの次期主力戦車として開発されることとなった。 ▲MBT-70試作車 レオパルト2はクラウス・マッファイ社とポルシェ社により開発が進められ、1972から74年にかけて第一次試作車の車体16両と砲塔17基が製作されてテストが行われた。1973年に第四次中東戦争が勃発し、対戦車ミサイルとRPG-7対戦車ロケットにより多数の戦車が破壊されたという情報が入ると、第一次試作車では重量45t以下としていた重量制限を55tまで引き上げることとなった。これは戦略的機動性よりも防御面の強化が最優先であると方針転換されたためで、それまでの避弾経始を重視した空間装甲の試作車だけでなく、当時の最新技術であった複合装甲を組み込んだ試作車が制作された。その後米国の次期主力戦車の候補にも挙げられることとなり、米国仕様のレオパルト2AVと呼ばれる車両が製造され米国に送られたが、結局M1が採用されている。最終的に1977年にドイツ連邦軍にて採用され、1979年から引渡しが開始されている。 装甲 基本構造としては装甲鋼板の溶接構造で、主要部には複合装甲が組み込まれ、従来の単純な圧延鋼版による装甲と比較して防御能力が飛躍的に向上している。重量の問題から装甲配置は正面60度からの被弾に対して乗員を保護できるよう考慮されており、車体前面と砲塔前面及び側面前方部、サイドスカート前方部に複合装甲が採用されている。装甲は垂直に切り立っており当初は避弾経始を無視した設計と批判されたが、現在主流となっているAPFSDS弾はかなり傾斜した装甲であっても跳弾することはなく、対戦車戦闘において避弾経始の概念自体が過去の物となったことを反映している。 レオパルト2の複合装甲は拘束セラミック式と呼ばれる、セラミックスやグラスファイバーをチタンなどでサンドイッチ、圧縮した構造となっているとされており、特に対戦車ミサイルやRPGなどの対戦車ロケットの成形炸薬弾頭に対して非常に高い防御能力を有する。これは成型炸薬によって成形されたメタルジェットの速度がセラミックスの割れる速度よりはるかに速いため、セラミックスの高い硬度をそのまま防御力に転換できることが要因となっている。また、徹甲弾に対しても各層衝突初期フェーズで弾体のエネルギーを大きく削ぐほか、圧縮することにより衝撃に弱いセラミックスの粉砕を防ぎ、弾体の抵抗を増すことで高い防御効果を持つ。 これによりレオパルト2の砲塔前面装甲はRHA換算で徹甲弾に対し700mm、成型炸薬弾に対して1000mm相当の防御能力を有すると言われており、これは当時のほぼ全ての戦車砲弾に対抗できるものであった。レオパルト1の前面装甲厚が実質140mm程度しかなかったことを考えると、防御力は格段に向上していることがわかる。 なお、正面以外の防御能力としては、車体側面が80mm、車体後面が30mm程度とされており、小口径機関砲弾に耐える程度で当時としては一般的なレベルである。しかしながら近年の非正規戦においては、RPG-7などの携行型対戦車兵器による後側面からの攻撃が脅威となっており、レオパルト2においても全周囲の防御能力を有するバリエーションが登場している。 火力 主砲はラインメタル社製44口径120mm滑腔砲を搭載し、レオパルト2A6からは砲身を長くし威力を向上させた55口径の滑腔砲が搭載された。 この滑腔砲は従来のライフル砲の様にライフリングが切られていないため、発射時の抵抗が少なく弾体の飛翔速度を大幅に上げることが出来る他、砲身の摩耗が少ない等のメリットがある。ライフリングが無いため弾体に安定翼を使うことで弾体を安定させている。 レオパルト2では105mmライフル砲が主流だった時代に、この120mmという大口径の滑腔砲を西側で初めて搭載し、第三世代戦車の基礎を形成した。やがて米国でも採用される事となったこの砲は、現在の西側第三世代戦車のスタンダードとなり、各国で同規格の砲が開発された。 ▲左からDM53 APFSDS、DM12A2 HEAT-MP、DM11 HE-FRAG ラインメタル社が開発したDM13 APFSDSはタングステン合金製の弾体を持ち、距離2kmでRHA換算で390mm程度の装甲貫徹力を有していた。弾薬は順次改良型が開発され、1983年からはL/D比を14程度に向上させたDM23、1987年にはL/D比を20程度まで向上させたDM33が運用され始めている。DM33は44口径砲で射撃した場合、初速1650m/s、距離2kmでRHA換算460mm程度の装甲貫徹力を有している。DM33は日本でもダイキン工業によってライセンス生産され、陸上自衛隊の90式戦車で運用されている。ラインメタル社ではその後フランスと共同でDM43を開発したが、ドイツでは運用されなかった。 2004年頃にはL/D比を30程度まで向上させ、より装甲貫徹力の高いDM53が開発され、レオパルト2A6と共に採用された。DM53は44口径砲で発射した場合初速は1670m/sで、距離2kmで600mm、レオパルト2A6の55口径砲の場合初速1750m/sで同条件で650mm以上の装甲貫徹力を有するとされる。現在では弾体は同じだが装薬を表面コートダブルベース装薬とすることで対環境性を向上させ、マイナス46度からプラス71度まで安定した能力を発揮するDM63が開発され、既に生産されたDM53も同様に装薬を交換したDM53A1となっている。 ▲DM63 APFSDS 化学エネルギー弾として運用する多目的対戦車榴弾DM12 HEAT-MPは、初速1140m/sで、成形炸薬弾頭により距離に関係なく600〜700mmの装甲貫徹力を有しているとされる。対戦車戦闘にも使用出来るが、複合装甲や爆発反応装甲に対しては有効でないため、主に戦車以外の装甲車両や対物戦闘において使用される。日本でもライセンス生産され、90式戦車及び10式戦車において運用されている。 ▲DM12 HEAT-MP弾薬の内部構造 DM11の炸薬量はDM12の約2倍となっており、二重の鉄筋が入った強化コンクリート壁に70cmの穴を開けることが可能で、2発で125cm×70cmの人が通れるサイズの穴を開けることができる。プログラマブル信管により、着発、空中爆発、遅延の3モードで動作させることが可能で、様々な作戦に柔軟に対応する。弾頭先端には多数のタングステン球が仕込まれており、空中爆発モードでは広範囲に破片とタングステン球を飛散させる。DM11はドイツ連邦軍だけでなく米海兵隊においても採用され、アフガニスタンにて使用された。 ▲DM11 HE-FRAG弾薬の内部構造 照準器 砲手用照準機は照準眼鏡、レーザー測遠器、赤外線暗視装置からなるクルップ・アトラス・エレクトロニクス社(現ラインメタル・ディフェンス・エレクトロニクス社)製EMES-15照準システムで、照準眼鏡の倍率は12倍、視野5度。レーザー測遠器は9900mまで測定可能で、誤差±10m。赤外線暗視装置は8-12ミクロンの遠赤外線波長を検知するカールツァイス社製WBG-X第一世代パッシブ式赤外線暗視装置で、倍率は12倍(視野2.5×5度)と4倍(視野7.5×15度)の切り替え式、有効距離は2500mとなっている。当初赤外線暗視装置の開発が間に合わなかったため、PZB200 LLLTV(低光量TVカメラ)で代用し、レオパルト2A1から本来の赤外線暗視装置が搭載された。 この照準システムは3つのジャイロスコープにより二軸安定化されており、主砲/砲塔もこれに連動する様に安定しているため、車体の動きにかかわらず目標を捕捉し射撃することが可能である。防盾部には補助用としてFERO-Z18直接照準用スコープも備える。 車長用にも専用のカールツァイス社製PERI-R17照準器が備えられている。このPERI-R17照準器は倍率2倍・視野30度と倍率8倍・視野8度の切り替え式で、360度旋回可能、俯仰角-13度から+20度で、2軸安定化されている。車長は砲手用照準器EMES-15の映像を見ることも可能で、これにより砲手が照準中でも車長が次の目標情報を砲手に渡しながら周囲を捜索出来ようになっている。(ハンター・キラー能力) レオパルト2A5から搭載されたPERI-R17A2では波長7.5μm〜10.5μmを使用するオフェリウス(OPHELIOS)第二世代赤外線暗視装置が搭載され、夜間悪天候時でもハンター・キラー能力を得ている。オフェリウスは解像度784×576のIR-CCDを有しており、視野3.6×4.8度と12.3×16.4度の切り替え式となっている。 ▲PERI-R17A2及び車長席 駆動系 ▲MB873ディーゼルエンジン エンジンはMBT-70用に開発されていたMTU製MB873KaM-501 V型12気筒水冷ターボチャージャー付ディーゼルエンジンを搭載し、スーパーチャージャーも搭載しており、従来の約2倍の1500馬力のパワーを叩きだす。戦車用ディーゼルエンジンとしては世界でもトップクラスの性能を持つこのエンジンは、良好な機動性と低燃費を実現している。エンジンのスペックとしては排気量は47640ccで圧縮比は18.0、最大出力は1500馬力/2600rpmで、最大軸トルクは4700Nm/1600rpmであり、燃料消費率は2600rpmで250g/kwhとなっている。 このエンジンによりレオパルト2A4までの出力重量比は27hp/tとなっており、レオパルト2A6においても25hp/tを発揮する。また、最大速度は72km/hでリミッターを外すと最大90km/h程度まで出すことが可能。第二世代戦車の中でも特に機動性を重視していたレオパルト1でも最大速度65km/hで出力重量比20hp/t程度であり、大きく進歩していることがわかる。 燃料搭載量は1160Lで、航続距離は整地で約500kmとなっている。燃費は整地で時速50kmで走行した場合で1L当たり435mだが、時速25kmでの不整地走行の場合1Lあたり150〜200mであり、さらにアイドル時においても1時間あたり12.5Lの燃料を消費する。 ▲HSWL354トランスミッション エンジンとトランスミッションは一体化したパワーパックとしてコンパクトにまとめられており、約35分で換装出来るという。 ▲パワーパック サスペンションはトーションバーサスペンションで第1-3、6、7転輪にはショックアブソーバーが取り付けられている。トラベル長が上限350mm+下限175mmの計525mmとなっており、400mm弱だったレオパルト1と比較しても大きく、高い不整地走破性能を得ている。 渡渉能力としては通常時1.2mだが、シュノーケルを車長用キューポラに取り付け、各部をシールすれば水深2.25mまで、3分割の大型シュノーケルを取り付ければ水深4mまで渡渉できる。 ▲シュノーケルを装備し渡渉するレオパルト2 バリエーション レオパルト2A0 ▲初期ロット車両 レオパルト2A1 1982年から1984年までに生産された第二ロット(450両)、第三ロット(300両)生産型両。テキサス・インスツルメント社製統合型赤外線暗視装置を搭載し夜間戦闘能力を大幅に向上させた。また、環境センサーを内蔵式に、弾薬収納方法の変更、車長用サイトを 5cm上昇、NBC防護装置の改良、給油口の位置変更等が初期ロット車両との変更点。 レオパルト2A2 初期ロットのレオパルト2にA1と同様の改修を施したもので、1984年から1987年にかけて改修が行われた。 レオパルト2A3 第四ロット生産型で1984年から1985年にかけて300両が生産された。無線機を新型のSEM80/90デジタル通信機とし、防御面で弱点であると判明した砲塔左側面の弾薬補給用ハッチを塞いでいる。 レオパルト2A4 第五〜第八ロット生産型(695両)で1985年から1992年にかけて生産された。砲塔左側面の弾薬補給用ハッチが最初からなくなり、車内消火システムを新型にし、履帯をディール社製の570FTに変更(第六ロット以降)、サイドスカートのヒンジに装甲カバーが装備された。また、のちに後方サイドスカートが山切りから一直線に換えられている。この段階での重量は55.1tである。 レオパルト2A5 レオパルト2A5はレオパルト2A4の防御面を中心とした強化改修型で、砲塔前面部にくさび形の空間装甲ボックスが追加され、外観が大きく変化した。この装甲は避弾経始が目的で装備されたわけではなく、装甲ボックスには2枚の主装甲板の間に数枚の補助装甲板を斜めに配しており、ここで徹甲弾のエネルギーを吸収したあと戦車本体の主装甲で受け止める仕組みになっている。HEAT弾に対しては中空装甲と同じ役割を果たす。 その他防御面の強化として、砲塔正面右側に取り付けられていた砲手用照準器が防御面で弱点となっていたため、砲塔上面に移動した。砲身の防盾は小型化し、砲塔内部には破片飛散防止用のスポールライナーも追加されている。転輪は従来のアルミ製から鋼鉄製に変更され、より強固なものとなった。 車長用全周視察装置はカールツァイス社製PERI R17A2となり、赤外線暗視装置とレーザー測遠器が組み込まれ、夜間・悪天候でもハンター・キラー能力を獲得した。他に油圧式だった砲塔・主砲発射機構が全電動方式となり、被弾時の火災の危険性を減らすと共に反応性が向上し射撃精度も向上した。GPSと慣性航法装置を組み合わせたハイブリッド型の航法装置が装備され、操縦手用に車体後部にTVカメラを搭載している。これらの装備により戦闘重量は59.5tに増大している。 レオパルト2A4から350両を改修、1995年から引渡しが開始されている。 レオパルト2A6 レオパルト2A6はレオパルト2A5の火力強化型で、主砲が55口径120mm滑腔砲に換装され、砲身長は従来の44口径120mm滑腔砲よりも1.3m伸びている。そのため砲弾初速が上昇し、射程は1000m伸びて4000mになり、砲口エネルギーは13.5MJと従来の1.5倍以上に上昇した。射撃統制装置や照準装置、砲安定装置も改良されており、合わせて開発されたDM53 APFSDSを使用することで距離3000mでT-80を撃破できるとされる。重量は400kg増加し59.9tとなった。レオパルト2A5から2001年から2007年にかけて225両が改修された。 レオパルト2A6EX レオパルト2A6EXはクラウス・マッファイ・ヴェクマン社(KMW)が独自に開発したレオパルト2A6の改修型で、レオパルト2A5の開発段階で計画されていたが取り入れられなかった装甲強化プランを中心に戦闘能力の向上を図ったものである。正規戦を想定したレオパルト2のバリエーションの中では最も優れた防御能力を有している。 対戦車ミサイルなどのトップアタック対策として砲塔上面に増加装甲が付加されており、砲塔ハッチも厚さ約20cmの非常に分厚いものに換装されたため、砲塔内に格納するスライド式に変更された。車体前面にはフェンダーの高さまで覆う増加装甲が付加されており、車体上面にも装甲が付加され車体部の防御能力も向上している。 防御面以外においても改修されており、特筆すべき点としてレオパルト2としては始めてC4IシステムのTCCS(Tank Command and Control System:戦車指揮統制システム)を搭載したことである。このシステムはラインメタル・ディフェンス・エレクトロニクス社によって開発されたもので、米国のM1A2やフランスのルクレールのように車両間でリアルタイムのデータリンクにより情報のやり取りが可能となっており、戦闘能力が大幅に向上している。また、砲塔後部右側にはエアコンが装備され、待機時の電力消費を補うためエンジンデッキ右側にAPU(補助動力装置)が追加されている。これらの追加装備により重量が62.4tに増加している。 ドイツ連邦軍には採用されていないが、ギリシャのレオパルト2HELとスペインのレオパルト2Eのベースとなった他、スウェーデンの導入したレオパルト2A5であるStrv.122にも同様の増加装甲とTCCSが採用され、デンマークのレオパルト2A5にも車体前面の増加装甲とエアコン、APUが採用されている。 ▲レオパルト2HEL(ギリシャ) スペインのレオパルト2Eではスペイン陸軍指揮統制システムのSIMACETに連接するため、TCCSの代わりにアンペル・プログラマス社とラインメタル・ディフェンス・エレクトロニクス社で共同開発したLINCE(Leopard Information Control Equipment:レオパルト情報管理装置)と呼ばれるC4Iシステムを搭載する。また、砲手用と車長用暗視装置がインドラ社製熱線暗視装置に換装されており、APUが日本のクボタ製のディーゼル発電機となっている。 1998年から219両を導入しており、うち189両は2003年から2008年までの間にジェネラル・ダイナミクス・サンタ・バーバラ・システマス社でライセンス生産を行った。 ▲レオパルト2E(スペイン) レオパルト2A6M レオパルト2A6Mはレオパルト2A6に地雷防御キットを取り付けたタイプで、非正規戦で多発する地雷やIEDなどの待ち伏せ攻撃に対する防御能力が向上している。 名称のMはマインプロテクトの意味。 改修箇所としては、車体底面に装甲プレートを付加し、トーションバー防御用カバーを追加、車体底面脱出ハッチも強化されており、トーションバー、転輪部を含め底部全幅を防御できるようになっている。 また、車体最下段の弾薬庫も撤去し、操縦席は上から吊り下げるハーネスタイプとなり、車体底部からの衝撃が伝わらないようになっている。車長・装填手・砲手席も改修取り付けを行い、砲塔バスケットも新しいものとなった。これら改修により戦闘重量は約2トン増え、62.5tになっている。 2004年から2008年にかけて70両がA6から改良され、そのうちの20両がカナダ軍にリースされている。カナダ軍のA6MはRPG対策として車体及び砲塔の正面を除く全周囲にスラット装甲を装備している他、携帯電話などを利用した無線起爆型のIEDに対する妨害電波発信用のアンテナも装備している。 ▲カナダ軍のレオパルト2A6M レオパルト2A7+ レオパルト2A7+は近年多発する市街地戦での脅威に対応するためレオパルト2A6に改修を施したもので、アメリカのM1TUSKやフランスのルクレールAZURと同様に全周囲の防護能力を得るとともに、視察装置の改良やRWSの搭載など様々な近代化改修が施されている。クラウス・マッファイ・ヴェクマン社(KMW)が独自に開発したレオパルト2の市街地戦用モデルのレオパルト2PSOがベースとなっており、2010年のユーロサトリ兵器見本市で発表された。 ▲レオパルト2PSO 改修点としてはレオパルト2A6Mと同様の地雷防御キットが付加され、地雷やIEDに対する防御能力が向上している他、車体前面にはレオパルト2A6EXと同様の増加装甲が付与されている。砲塔と車体側面の装甲はモジュラー化されており、新規開発された非正規戦用の対成型炸薬弾用中空装甲パッケージと、従来と同様の正規戦用の対徹甲弾用装甲パッケージが用意されており、必要に応じて換装が可能となっている。 ▲正規戦用装甲パッケージ 新たに開発された非正規戦用装甲パッケージでは、砲塔側面とサイドスカート前半部に対RPG用増加装甲モジュールが追加され、砲塔側面には側方監視用カメラモジュールが搭載される。また、機関室周囲には対火炎瓶用メッシュが追加される。車体後部には装甲は付加されていないが、レオパルト2では後部のエンジンルームと前部は隔壁で隔離されているため、仮にエンジンに被弾し、火災が発生しても乗員は保護される。 ▲非正規戦用装甲パッケージ 装填手用ハッチの後方にはKMW社製のFLW200遠隔操作兵装ステーション(RWS)を搭載し、7.62mm機関銃、12.7mm機関銃や40mmグレネードランチャーを搭載可能で、スモークディスチャージャーも備える。これにより乗員は身を晒さずに車内からジョイスティックによる遠隔操作にて射撃することが可能なり、市街地での狙撃やIEDなどから乗員を保護しつつ周辺監視と攻撃を行うことができるようになっている。 ▲FLW200リモートコントロールウェポンステーション C4IシステムとしてKWM社のIFIS統合指揮情報システムが搭載され、車両間及び後方司令部とのリアルタイムデータリンクにより、敵味方情報を共有し部隊単位での戦闘能力を大幅に向上させている。車長席と操縦席にはカラーディスプレイが追加され、デジタルマップ上に敵味方情報が表示される。 ▲IFIS車長用ディスプレイ 車長用サイトは最大で1280×1024の解像度を有する第三世代ATTICA赤外線暗視サイトに変更される。操縦手用暗視装置も従来はBM8005微光暗視装置が搭載されていたが、カールツァイス社製VIRTUS赤外線暗視装置に換装された。 車体後部右には待機時の電力消費を補うためAPU(補助動力装置)を装備し、砲塔後部にはエアコンが装備されイラクやアフガニスタンなどの高温環境下での乗員の負担軽減が図られている。 車体前面には障害物除去用の分割式油圧ドーザーを搭載することも可能で、車体前面装甲としての役割も果たすという。 重量がシリーズ中最重量の67.5tまで増加しており、これに対応するため、サスペンションとブレーキが改良され、起動輪と履帯も新型のものに換装されている。ドイツ連邦軍では2012年から50両分の改修を予定している。 レオパルト2A4M CAN レオパルト2A4M CANはカナダ軍が導入したレオパルト2A4の装甲強化型であり、増加装甲によりレオパルト2A5などに近い外観となっている。カナダがオランダから購入した80両の中古のレオパルト2A4のうち、20両がドイツのKWM社によって改修され、2010年から引渡しが行われた。 車体下面にレオパルト2A6Mと同様の対地雷装甲が付加されており、操縦席も上から吊り下げるハーネスタイプとなり、地雷やIEDに対する防御能力が向上している。また、携帯電話などを利用した無線起爆型のIEDに対する妨害電波発信用のアンテナも装備している。 砲塔正面にはレオパルト2A5以降のようなくさび形の増加装甲が付加され、砲塔側面及びサイドスカートにはレオパルト2A7+と同様のものと思われる増加装甲が付加されている。砲塔及び車体後部には対RPG用のスラット装甲も追加されており、全周囲での防御能力を得ている。車内には被弾時の装甲の内部剥離から乗員を保護するためのスポールライナーも装着された。砲塔正面の砲手用照準器はA5では上部に移動させていたが、A4M CANではそのままとなっており、増加装甲もその部分に切り欠きが入っている。 その他には砲塔の駆動方式が油圧式からデジタル制御の電動式となっている他、乗員の負担軽減のためのクーリングベストの搭載や、バラクーダMCS偽装網の搭載、機関銃及び火災消火システムの換装などが施されている。戦闘重量は61.8tとなっている。 レオパルト2A4 エボリューション ドイツの装甲メーカーIBD社が独自開発したレオパルト2A4の装甲強化型。同社が開発したAMAP(Advanced Modular Armour Protection)と呼ばれる複数種のモジュラー装甲パッケージを組み合わせた構成となっており、具体的には以下のものがある。 AMAP-B(対徹甲弾防御) 運動エネルギー弾に対抗する複合装甲パッケージで、車体前面及び側面前半、砲塔正面に付加されている。これにより大口径のAPFSDSに対する防御能力が更に向上している。砲塔正面の砲手用照準器の配置はそのままなため、その部分だけ切り欠きが入っている。 AMAP-SC(対成型炸薬防御) 化学エネルギー弾に対抗するための複合装甲及び空間装甲パッケージで、車体及び砲塔側面の増加装甲と後部のスラット装甲により、全周囲からのRPG対戦車ロケットや対戦車ミサイル等に対抗することが可能となっている。また、側面の増加装甲はヒンジで開くようになっており、整備性を損なわないように考慮されている。 AMAP-R(上面防御) 砲塔上面に追加される二層構造の増加装甲により、上空からの対戦車用EFP弾や榴弾砲の至近距離での爆発から乗員を保護する。 AMAP-M(対地雷防御) 車体下面に装備する増加装甲により、地雷や仕掛け爆弾から乗員を保護する。また、レオパルト2A6Mと同様に操縦席をハーネスタイプとすることで爆発による衝撃を直接伝えないようになっている。 ▲車体下面の増加装甲 AMAP-L(乗員保護用スポールライナー) 車内にIBD社が開発した新型のC1 HTライナーと呼ばれる複合材のスポールライナー(内張り)を張り巡らせることで、被弾時の装甲の内部剥離を抑え、乗員を保護する。 ▲スポールライナーの効果 AMAP-IED(対爆発防御) IEDなどの爆発物に対する装甲技術で、爆発による衝撃や破片から車両を保護するもので、レオパルト2A4エボリューションでは前述の他のAMAPパッケージに組み込まれている。 これらのAMAP装甲パッケージにより正面以外においても高い防御能力を得ており、全周囲でRPG-29に耐えるとされている。総重量はオリジナルから5t程度増え、60tに上昇している。シンガポールのレオパルト2A4にこれらのエボリューションパッケージが採用された他、後述するラインメンタル社のレオパルト2MBTレボリューションとアセルサン社のレオパルト2NGにも採用されている。 ▲シンガポールのレオパルト2A4 また、オプションとしてAMAP-ADS(アクティブ防御システム)を搭載することも可能。AMAP-ADSはIBD社とラインメタル社の合弁会社であるADS社によって開発されたアクティブ防御システムであり、ミリ波レーダーと光学センサーにより10〜15mで目標の接近を探知後、指向性の高い化学エネルギーのビームを照射し約2mの距離で目標を迎撃する。 ▲AMAP-ADS レオパルト2 MBTレボリューション レオパルト2 MBTレボリューションはラインメンタル社によるレオパルト2の総合強化パッケージで、各所に様々な改修が施されている。デモンストレーターとしてレオパルト2A4が用いられたが、個々のシステムは他のMBTにも適用可能とされる。 まず防御面の強化として前述のレオパルト2エボリューションと同様にIBD社のAMAP装甲パッケージが採用されており、そのため見た目の印象はよく似たものとなっている。これにより全周囲からのRPGや地雷、IEDなど市街地戦闘での脅威に対する防御能力が大幅に向上している。 スモークディスチャージャーは標準のものは外され、代わりに砲塔の四隅にラインメタル社のロージーLと呼ばれるスモークプロテクションシステムが搭載される。これはレーザー検知装置と連動したマルチスペクトル煙幕展開システムで、可視光、赤外線、レーザー誘導等に対応した煙幕を瞬時に展開し、車両を保護する。 ロージーLの下には1箇所につき可視光及び赤外線カメラが合わせて3基取り付けられており、砲塔四隅で12台のカメラを有する。これにより昼夜間で360度の視界を得ており、市街地戦などで高い状況認識能力を得ている。また、車体後部には操縦手用のリアカメラも追加搭載されている。 ▲レボリューションパッケージで得られる視界範囲 砲塔上部には装填手用としてラインメタル・カナダ社が開発したQimek遠隔操作兵装ステーション(RCWS)を搭載する。7.62mmおよび12.7mm機関銃や40mmグレネードランチャーを搭載可能で、車内からジョイスティックにより遠隔操作が可能となっている。 照準システムはラインメタル・ディフェンス・エレクトロニクス社が開発したSEOSS(stabilized electro-optical sensor system)と呼ばれるデジタル式FCSを搭載した統合照準システムに換装される。SEOSSはサフィールと呼ばれる第三世代の赤外線暗視装置と、高解像度のCCDカメラ、レーザーレンジファインダーを統合した照準システムで、2軸安定化されており昼夜間で移動目標の追尾が可能。また、砲手用照準器と車長用照準器どちらからでも照準が可能となっている。 C4I機能として同社が開発したINIOCHOS戦闘統括システムを搭載し位置情報などをデータリンクによりリアルタイムで共有することが可能となっている。このシステムはギリシャのレオパルト2HELにおいても採用されている。 これらの電子機器の追加に伴う電力消費に対応するため17kwのAPU(補助動力装置)を搭載する他、車内にはエアコンも追加装備することで、中東のような劣悪環境にも対応する。また、市街地戦闘での事故を防ぐため、車長用のブレーキが追加されている。これらの追加装備により戦闘重量は最大で63.5tとなった。 レオパルト2 NG レオパルト2NG(Next Generation)はトルコのアセルサン社が提案しているレオパルト2A4のアップグレードパッケージで、総合的な戦闘能力の向上を図るものである。トルコでは国産の新戦車導入までのつなぎとしてドイツから購入した中古のレオパルト2A4を298両保有しており、このアップグレードとしてレオパルト2NGを検討している。 まず防御面の強化としてはレオパルト2エボリューションと同様にIBD社のAMAP装甲パッケージを搭載しており、見た目はよく似たものとなっている。これにより正規戦でのAPFSDSや対戦車ミサイルの他、市街地戦闘での脅威である全周囲からのRPGや地雷、IEDなどに対する防御能力も大幅に向上させている。 砲塔の四隅にはレーザー検知装置を搭載し、スモークディスチャージャーと連動して即座に煙幕を展開する事が可能。 砲塔上部にはリモートウェポンステーション(RWS)を搭載し、車内から安全に機関銃による射撃が可能となっている。また、RWSで捉えた目標を砲手用照準器に渡して即座に主砲で攻撃することも可能となっている。 砲手用照準器及び車長用視察装置を含むFCSが換装されており、車内のサイトは接眼式からディスプレイ表示型になっている。移動目標の追尾が可能で、低空飛行するヘリコプターも攻撃可能となっている。また、砲手用照準器が破損した場合でも車長用視察装置を用いて照準が可能。FCSのコンピューターユニットは冗長性を持たせるため2台搭載されており、それぞれのコンピューターは機能ごとにLRU(Line Replaceable Unit)としてユニット化されているため、故障してもLRUを交換することで即座に復旧可能となっている。 また、戦場統括システムの搭載により車両間や後方の司令部とデータリンクにより位置情報などを共有することが可能となっている。その他操縦手用に車体前後に赤外線カメラの搭載、砲塔の駆動方式の全電動化などの改良が施されており、その結果戦闘重量は65tまで上昇しているとされる。 ▲改修前のレオパルト2A4とレオパルト2NG Strv.122 Strv.122はスウェーデンが採用したレオパルト2A5の改良型で、オリジナルと比べて戦闘能力が向上している。1995年からクラウス・マッファイ・ヴェクマン社により最初の20両が納入され、その後スウェーデンのヘグルンド・ヴィークル社(現BAEシステムズ・ヘグルンド社)により100両の組み立てが行われ、計120両が配備された。 防御面の強化としてレオパルト2A6EXと同様の装甲強化改修が施されており、トップアタック対策として砲塔上面に増加装甲が付加、車体前面及び上面にも増加装甲が付加され、防御能力が向上している。砲塔ハッチも約20cmの分厚いものとなり、そのため砲塔内に格納する電動スライド式に変更された。 砲塔側面の発煙弾発射機はフランスのルクレールと同じGIAT社(現Nexter社)のGALIX車両防護システムに変更されており、4×2の発射機からは発煙弾だけでなく対人用グレネード弾や催涙弾、赤外線デコイなども発射可能となっている。これら追加装備により重量は62.5tとなっており、これに対応するためトーションバーサスペンションとブレーキが強化型に換装されている。 装甲面以外にも特筆すべき点として、実戦配備されたレオパルト2としては初めてC4IシステムのTCCS(Tank Command and Control System:戦車指揮統制システム)を搭載したことが挙げられる。このシステムにより車両間でリアルタイムのデータリンクを行い、敵味方の位置情報や司令部からの画像情報などの共有が可能となっており、車長席及び操縦席ディスプレイのデジタルマップに表示することが可能となっている。また、レーザー測遠機を利用して砲兵部隊への目標指示も可能であり、部隊単位での戦術戦闘能力が大幅に向上している。操縦手用暗視装置はノースロップ・グラマン社の第二世代赤外線暗視装置AN/VVS-STRV122に変更されている。 また、2003年からはレオパルト2A6Mと同様の対地雷防御キットが装備され、戦闘重量が64.5tに増加した。 ▲Strv122B スペック(レオパルト2A6)
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