F-22ラプターはアメリカ空軍の第5世代戦闘機であり、F-15の後継機となるべくしてロッキード・マーチン社によって開発されたステルス戦闘機である。あらゆる点において従来機を凌駕する性能を持ち、模擬戦闘での他機を寄せ付けない実績から世界最強の戦闘機と呼ばれる機体である。 愛称である「ラプター」は猛禽類と言う意味を持っており、航空支配戦闘機(Air Dominance Fighter)の異名を持つ。 戦術コンセプトは「First look,First shot,First kill」(先制発見、先制攻撃、先制撃破)であり、F-22ではこれを実現するべく様々な最新技術が詰め込まれた。 開発&配備 ▲斬新なデザインを持っていたYF-23 量産型のF-22AのYF-22からの変更点としては、搭載するレーダーに合わせて機種形状を変更し、コクピットも前方に移っている。このため胴体長も19.56mから18.92mへと短くなっている。主翼や水平尾翼も形状が変更され、垂直尾翼は小型化しステルス性が向上している。 F-22は当初の計画では750機が生産され、副座型のF-22Bも生産される予定だったが、ソ連崩壊と機体価格の高騰により生産数が削減され続けていった結果、現在では単座型のF-22Aのみが183機生産されることとなった。 1999年から初期低率生産が開始され、2005年12月15日にヴァージニア州ラングレー空軍基地に初めて配備された。2002年に、攻撃機を意味するAを付加して正式名称F/A-22としたが、空軍が呼びにくい海軍式の名称を嫌ったため2005年にF-22Aに戻されている。最終的に量産型は2011年までに187機が生産され、試作機のYF-22 8機を含めて195機が生産された。その後生産ラインは閉鎖された。 ▲試作機であるYF-22。よく見ると細部がF-22と異なっている ステルス性
ステルス形状の基本は各部のエッジの角度を揃えることで、レーダー反射波を一方向に限定し元の方向に返させないようにするというものである。F-22でも上面から見れば主翼前縁の角度とインテイクや水平尾翼の前縁の角度は統一され、正面から見ても菱形を基本に角度を統一させており、レーダー反射波を4方向に限定させているのが分かる。また、機体形状だけでなく構造も電波吸収構造が用いられ、機体全体にはRAM(電波吸収塗料)が塗布されており、これにより方向を変えるだけでなくレーダー反射波を減少させることでステルス性を高めている。 ステルス性を高めるためエアインテイクからのダクトは内側に大きく曲げられており、真正面から見てもタービンブレードが全く見えない。前身のF-15ではタービンが剥き出しの大きなエアインテイクがあるため、正面のRCSが非常に高いという問題があった。 これらによりF-22のRCS(レーダー有効反射面積)は正面において0.0001-0.0002平方メートルと小鳥か昆虫などと同レベルと言われており、その他の方向においても高いステルス性能を持っているため、レーダーで捕らえることは非常に困難だろう。 実際にF-22と訓練で相手したパイロットによれば「目視出来ているのにレーダーに映らなかった」という話もあった程である。確かにF-22のRCSから考えれば、F-15クラスのレーダーでもかなり近づいてやっと捕らえられるレベルだと考えられる。 ▲各部の角度を統一することで反射波を一方向に限定させている 機動力 エンジンにはプラット&ホイットニー社製F119-PW-100ターボファンエンジンが二基搭載されている。このエンジンは3段のファン、6段の圧縮機、各一段の低圧タービンと高圧タービンで構成されており、部品点数はF-15のF100-PW-220の6割程度にまで削減されている。ドライ時の出力を高くするためにバイパス比は0.2と非常に小さく、ここまでくるとほぼターボジェットエンジンである。このエンジンは最大出力が156kNと非常に高い出力を持っており、F-15のF100-PW-220の約1.5倍に匹敵する。推力重量比もF100が7.8であったのに対し、F119では9.0を達成している。そのためアフターバーナーを使用しない状態でもF-15のA/B使用時とほぼ同等の機動が可能であり、高出力のエンジンによる余剰推力はドッグファイトにおいても常に優位な戦闘を展開出来るだろう。 また、F-22の特筆すべき点の一つとして、スーパークルーズ(超音速巡航)能力があり、アフターバーナーを使用せずにマッハ1.82での飛行が可能だ。従来機では音速を出すためにはアフターバーナーの使用が不可欠で、非常に限られた時間しか音速飛行するのは不可能であった。その点F-22では言ってみれば常時超音速飛行が可能なため、移動時だけでなく攻撃時にはスタンドオフ兵器の射程を伸ばすのに貢献し、回避時には言うまでもなく地対空ミサイルなどを振り切れる可能性を高くする。 また、排気口には二次元推力偏向パドルが取り付けられており、ピッチ方向に±20°の範囲で動作し、TVC(Thrust Vector Control:推力偏向制御)を実現している。これにより速度や迎え角に関係なくピッチ制御が可能となり、運動性能やSTOL性(短距離離陸能力)を大幅に向上させている。さらにピッチだけでなくロール制御にも利用され、ロール率が通常型排気口に比べ50%高いという。 また、TVCによって低速時の迎え角の限界を最低でも10度引き上げることが可能で、実験では85度の迎え角での操縦制御が可能だった。そのためF-22ではロシア機の専売特許と思われていた「コブラ」(水平飛行から急激に120°近くまで機首上げを行い、そのまま水平飛行に戻る機動)や「クルビット」(ほとんど高度を変えずに宙返りする機動)といったポストストールマニューバーも可能である。 TVCの動作はフライ・バイ・ワイヤのソフトウェアに組み込まれているため、通常パイロットがコントロールすることはないが、手動で動かすためのレバーがあり、推力偏向を行うことが出来るようである。また、通常はフライ・バイ・ワイヤによって最大迎え角や最大負荷加重は制限されおり、危険な状態になりそうになると自動的に機体を制御するようになっている。 レーダーシステム
F-2のAPARでは約800個のアンテナモジュールで構成されていたが、F-22のAN/APG-77では出力4Wのアンテナモジュール約2000個で構成されており、出力も走査範囲もF-2の物に比べ段違いの性能を誇る。具体的にはステルス性が意識されたレベルのRCS1平方メートルの機体(F/A-18Eやラファール等)を200km以上で探知出来るという。また、計算上ではB-2ステルス爆撃機(RCS0.1平方メートル)でさえ約100kmで発見可能である。 さらにこのレーダーには広域スペクトラム送信という技術が用いられており、相手のRWR(レーダー警戒装置)などによる逆探知も難しいとされている。従来のレーダーは狭い周波数帯で高い出力の電波を相手に放射していたが、広域スペクトラム送信では様々な周波数の電波を低い出力で放出し、それらの反射波信号を総合的にコンピュータによって処理することで、弱い電波でも正確な情報を得ることが出来るのである。 APARの特徴としてアンテナを機械的に動かす事無く電波のビームを自在にコントロール出来、広域のスキャンを一瞬で行うことが可能なため、レーダー波の逆探知による発見をますます難しくしている。例えばF-15CのAN/APG-63の場合は走査範囲は最大で水平方向に120°、垂直方向に20°でスキャンに14秒かかるが、F-22AのAN/APG-77では120°の円錐範囲のスキャンを一瞬で行うことが出来る。 また、敵航空機のレーダ波を受動的に捉え位置を算出するRWR機能も有しており、最大で460kmの距離で探知出来るという。 このようにF-22のレーダーシステムは過去類を見ないほど強力な物で、ステルス性と相まって敵からは発見されず先に敵機を発見出来るため、空対空戦闘に置いて圧倒的優位に立つ事が出来るのである。 さらにこのレーダーは対地攻撃用に合成開口レーダー(SAR)モードや逆合成開口レーダー(ISAR)モードも追加される予定で、地上目標の詳細な3D画像を生成することにより本格的な対地攻撃能力も有するようになる。 ちなみにレーダーアンテナは正面のステルス性を考慮し斜め上向きに取り付けられている。 F-22のコクピットはグラスコクピット化を徹底させた結果、旧来のアナログな丸形計器類は全く見受けられなくなった。その代わりに4基のカラー液晶多機能表示装置と2基のカラー液晶補助表示装置が配置されており、飛行計器・燃料データや戦術情報など様々な情報が表示される。HUDはホログラフィ式で、従来の物よりも広視野の物が搭載されている。 シートには他の米軍機同様ACESU射出座席が装備されているが、パイロット用にTLSSフライトスーツが新しく開発された。TLSSはTactical Life Support Systemの略で直訳すると戦術生命維持システムである。このシステムでは従来のGスーツのように下半身だけでなく、全身をカバーすることで高い対G性能を持ち、新型の加圧呼吸装置と併せることでパイロットは従来より長時間9Gに耐えることが出来るようになった。 キャノピーはステルス性向上のため、金などによってコーティングされており、レーダー波を拡散・反射させることで、電波がコクピット内に入り込まないようになっている。この為光の当たり方によってはキャノピーが金色に輝くため、これも一つの特徴となっている。 統合戦術情報分配システム(JTIDS)の搭載によりリンク16を用いて味方のAWACSやF-22同士で敵味方情報をデータリンクすることで、自らが探知していない目標に攻撃を仕掛けることも可能。 F-22の電子機器システムは2基のCIP(共通統合プロセッサー)によって制御され、それぞれ各サブシステムと光ファイバーのデータバスで繋がっている。このプロセッサーは700MIPS(毎秒7億回の命令を実行可能)の処理能力があり、F/A-18Eなどと比較しても10倍以上の性能を持つという。CIPは1基に付き66のモジュールスロットがあり、現段階ではその内の22しか使用されていない。そのため将来的にさらに性能を向上させることが可能で、最大で2000MIPSまで処理能力を引き上げることが可能だという。 余談だが、2000MIPSと言えばロールアウト時であればちょっとしたスーパーコンピューター並みの処理能力で、一部で話題となっていた。しかしコンピューターの発展というのは著しく、現在で言えばそう大した値でもない。(参考値:PS2の「エモーションエンジン」は450MIPS、PS3のCPU「Cell」は21,800MIPS、XBox360のCPU「Xenon」は19,200 MIPSである) 搭載兵装 サイドウェポンベイはAIM-9サイドワインダー専用で、LAU-141/Aレールランチャーが装備されている。発射時にはドアが開きレールランチャーが外側斜め下向きにせり出すが、これはサイドワインダーをロックオンする際にシーカーの射界を確保するためである。 ▲ウェポンベイを展開した状態 空対空ミッションではこのAIM-9サイドワインダー2発、AIM-120C AMRAAM 6発の計8発の空対空ミサイルの搭載が基本である。 空対空ミサイル以外の兵装としては、GPS/INS誘導爆弾である1000lbのGBU-32JDAMを2発もしくは250lbのGBU-39 SDB(小直径爆弾)を8発メインウェポンベイ内に搭載することが出来る。テストにおいてはマッハ1.4でJDAMを投下させることに成功している。いずれの場合もAIM-9サイドワインダーとAIM-120C AMRAAMを2発ずつ搭載出来る。 F-22Aではこういった精密誘導爆弾も運用出来るため、既に全機退役してしまったF-117Aの代替としての対地攻撃ミッションも期待されている。 ▲JDAMを投下するF-22A 固定兵装として機体右上面に他の米軍機同様M61A2バルカン砲が搭載されている。発射口はステルス性を損ねないように通常蓋がされており、トリガーを引くと自動的に開いて発射される。 ステルス性を考慮する必要が無い場合は、主翼下にそれぞれ2ヶ所ずつパイロンを装備し600ガロン燃料タンクやAMRAAMなどを搭載することが可能で、発射可能な状態で最大12発の空対空ミサイルを搭載することが出来る。また、燃料タンクのパイロン脇に2発ずつAMRAAMを発射は出来ないが積むことが可能で、輸送だけなら16発の空対空ミサイルを積むことが可能だ。 ▲F-22兵装パターン一覧 アップデート F-22の近代化改修計画として、生産段階で間に合わなかった改良を既存機に対して行っていくインクリメント計画と呼ばれるものがある。2007年度から開始されたインクリメント2では超音速でのJDAMの投下能力と接続性を強化したデータリンクシステムを得ている。 2011年度から開始されたインクリメント3.1ではAN/APG-77レーダーへの合成開口レーダー(SAR)モードを追加し単機でのJDAMへの目標指示が可能となった。また、GBU-39 SDBの運用能力も追加され、対地攻撃能力が大幅に向上している。 2014年度から実施されるインクリメント3.2Aではリンク16の能力向上や、電子戦システムの改善などが行われる他、自動バックアップ酸素供給装置が搭載される。2015年度から予定されているインクリメント3.2BではAIM-9XサイドワインダーとAIM-120D AMRAAMの搭載能力が追加され、空対空戦闘能力が向上する。同時にヘルメット装着式照準システムのJHMCSも追加される予定だったが、技術的な問題により延期されたため、AIM-9Xのオフボアサイト射撃には対応していない。 その他将来的なアップデートとしては3モードシーカーを備える発展型SDBのSDB2の運用能力、F-35にも搭載されている発展型多機能データリンク(MADL)の搭載、自動衝突回避システム、側面レーダーアレイの追加、IRSTの搭載などがあり、インクリメント3.3又はそれ以降で実施されるとみられる。 実績その他 ▲空中給油を受けるF-22 ここまで良い所づくしのF-22なのだが、欠点として値段が非常に高いと言うことが挙げられる。F-22のフライアウェイコスト(1機作るための値段)は2008年の時点で1機あたり1億3750万ドル、日本円にして約150億円で、F-15Eで52億円、F/A-18Eで約60億だと言うことを考えても桁違いに高い。開発費等を加えれば1機あたり400億円近くと言われており、間違いなく戦闘機史上もっとも高価な機体である。 海外への輸出に関しては、アメリカ議会が技術が陳腐化するのを恐れて禁輸措置条項を取り付けていたため、輸出は行われなかった。実際にオーストラリアと日本が次期戦闘機としてF-22を検討していたが、前述の理由と生産ラインの閉鎖により両国ともF-35を選定している。 スペック
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