F-35ライトニングUは米国のロッキード・マーチン社を主として国際共同開発されているマルチロール戦闘機であり、優れたステルス性と最新鋭のアヴィオニクスを有する第五世代戦闘機である。 アメリカの他、イギリス、イタリア、オランダ、オーストラリア、カナダ、デンマーク、トルコ、ノルウェー、イスラエル、シンガポールが開発資金を提供し開発を行っており、ロッキード・マーチン社の他、BAEシステムズ社とノースロップグラマン社が主体となって開発を行っている。 また、2011年12月には航空自衛隊の次期戦闘機としても選定され、今後国内での生産も行われる予定であり、今後の動向に目が離せない機体と言えるだろう。 開発 ▲上段左からF-16・A-10・F-117、下段F/A-18C・A-6・AV-8B その結果、ボーイング社がX-32、ロッキード・マーチン社がX-35を開発し、この2機種によりトライアルが行われた。 ▲ボーイングX-32とロッキード・マーチンX-35 ▲ボーイングX-32B ▲ロッキード・マーチンX-35A 両者とも要求を十分満たすものであったが、選定の結果ロッキード・マーチン社のX-35が僅差で勝利した。X-35が勝利した大きな理由としては、リフトファンを利用した垂直離着陸システムの利点と発展性が評価されたことであった。リフトファンは同じ出力のエンジンを用いた場合、ダイレクトリフトの1.6倍の垂直推力を発生させることができた。また、ダイレクトリフトは排気流が非常に高温で、高温ガスの吸入によるエンジンストールの危険性が高かったが、リフトファンの場合高温のエンジン排気流は気流全体の半分以下で、高温ガス吸入のリスクが小さいことも評価されている。 ロッキード・マーチン社が選定されたあと、システム開発実証段階(SDD)という段階に移行し、X-35はF-35と名称を変更し、量産仕様を盛り込んだ試験機が開発された。F-35の飛行試験機はCTOL型初号機のAA-1が1機、F-35Aが4機、F-35Bが5機、F-35Cが4機の計14機が生産され、その他地上試験機として各型1機づつの疲労試験機と構造試験機、F-35Cの落下試験機1機、RCSや電波反射特性の試験のためのシグネチャ・ポール機1機が存在する。 F-35は空軍・海軍・海兵隊が使用する各機種の様々なミッションをこなせるようにするため、要求に合わせて通常離着陸型のF-35A、短距離・垂直離着陸型のF-35B、艦載型のF-35Cの3タイプが開発されている。 F-35A 空軍のF-16の後継としてF-22を補佐する機体として開発されたのが通常離着陸(CTOL)型のF-35Aである。F-35シリーズの中でも最も基本的なタイプで、バリエーションの中では最も軽量である。特徴としてはシリーズの中で唯一固定兵装として機関砲を搭載している点と、アメリカ空軍の給油方式であるフライングブーム給油に対応した給油口を搭載していることである。 ▲AF-1と空中給油を受けるAF-2 F-35B 続いて海兵隊のAV-8Bハリアーの後継機として開発されているのが短距離離陸垂直着陸(STOVL)型のF-35Bである。この機体の特徴はハリアー同様垂直離着陸能力を有する点だが、ハリアーのようなエンジン排気口を下に向ける推力偏向機構に加え、リフトファンを搭載している点である。ハリアーはダイレクトリフト方式という、エンジン排気口を直接下に向けることで揚力を得るというものだったが、この場合エンジン出力はほぼ100%でなければ垂直離着陸ができず、排気も非常に高温となってしまい運用を想定する空母や強襲揚陸艦の甲板にダメージを与える恐れがある。 F-35Bに搭載されるリフトファンは、エンジンの低圧軸からギアボックスを介してコクピット後方に配置されたファンを回転させ、揚力を得るというもので、排気ノズルからの推力とほぼ同等の推力を発生させている。これによりホバリング時に必要なエンジン出力は60%程度となる。リフトファンから排出される空気はエンジン排気流と違って温度が低く、エンジンが地面で跳ね返った高温の空気を吸い込む事による効率低下も防いでいる。 リフトファンはこのように利点が多いが、デメリットとしては離着陸時以外は使用することはないため、通常飛行時には完全なデッドウェイトとなってしまうことと、スペースを取るためその分の燃料搭載量や兵装搭載量が少なくなっている。 ▲強襲揚陸艦への着艦を行うF-35B ちなみにSTOVLは短距離離陸垂直着陸(Short TakeOff and Vertical Landing)という意味だが、これは運用形態を示しており、軽空母や強襲揚陸艦から短距離離陸し、垂直着陸で着艦する運用が想定されている。F-35Bは垂直離陸能力も有するが、離陸時に垂直離陸を行うと翼による揚力を得られないためペイロードが大幅に減少し、燃料消費も大きいため、離陸時はノズルを斜め下に向けることで短距離離陸を行う。 2008年6月11日に初号機のBF-1が初飛行し、2号機のBF-2が2009年4月23日、3号機のBF-3が2009年11月14日に初飛行している。アヴィオニクスやレーダー、EOTSやEO DASといったセンサーを搭載した4号機のBF-4も2009年1月23日にロールアウトしていたが、予定より1年遅れて2010年4月7日に初飛行した。そしてF-35Bの飛行試験機としては最後となる5号機のBF-5が2011年1月27日に初飛行し、その後量産に移行している。 2015年7月31日には初期作戦能力(IOC)を取得しF-35としては最初に実戦配備が行われた。 ▲プローブ&ドローグ給油方式のF-35B F-35C 最後に海軍のF/A-18C/D及びA-6の後継機として開発されているのが艦載型(CV)のF-35Cである。変更箇所としてはF-35A/Bよりも主翼を30%、水平・垂直尾翼を10%大型化することで着艦時の低速安定性を確保し、135ノット(250km/h)での空母進入が可能となった。また、F-35A/Bではフラップとエルロンが一体化したフラッペロンのみを装備していたが、F-35Cでは主翼大型化と折りたたみ機構追加に伴い外翼部後縁にエルロンを追加している。 ▲大型の主翼を持つF-35C 前脚がダブルタイヤになるなど、降着装置も着艦に耐えうる強化型となり、着艦フックも装備する他、F-35Bと同様のプローブ&ドローグ給油に対応した格納型プローブを搭載する。翼の大型化や折り畳み機構、降着装置の強化などによりバリエーションの中では一番重いが、翼面積と燃料タンク容量が大きいため、航続距離が最も大きい。 ▲翼を折り畳んだ状態 2009年7月28日に初号機のCF-1がロールアウトし、2010年6月7日に初飛行が行われた。また、2010年6月23日には落下試験機のCG-1により兵装を搭載した状態で約3.3mの高さから落下試験が行われている。2011年4月29日には飛行試験用の2号機CF-2、2011年5月21日には艦上運用試験のための3号機CF-3が初飛行している。4号機のCF-5が2012年11月30日に初飛行し、量産1号機のCF-6は2013年2月15日に初飛行した。 ▲F-35C CF-1 機体 機体としては開発元が同じなだけ有りF-22ラプターを1回り小型化したような形状となっている。ステルス機の基本である各部位の角度を合わせることによりレーダー波の反射方向を制限している他、レーダー波吸収構造やRAM(電波吸収塗料)によるコーティングにより反射する電波を抑制している。F-35のRAMは従来機より新しく、低コストのものが使用されており、耐久性の向上により整備コストも大幅に低減させている。兵装類もF-117やF-22同様ウェポンベイ内に搭載し、ステルス性を高めている。 正面RCSは0.0015平方メートルと言われており、F-22には1桁劣るものの、従来機種を寄せ付けないステルス性能を有していると言える。機種左右の空気取入れ口はダイバータレス・インレットという吸気空気の境界層を剥離させるためのダイバータというものが無い特徴的なものであり、ステルス性の向上と部品点数減少によるコストダウンに寄与している。 機体フレームの材質はCTOL型においてアルミニウムが43.4%、複合材が35.1%、チタンが15.4%、残りがその他となっており、最新世代の機体としては複合材の割合が少ない。これは当初からコストダウンのため、アルミニウムの使用率を増加させているためである。 ▲ダイバータが無いため空気取入れ口は胴体と一体化している 推進システム プラット&ホイットニー F135 エンジンにはプラット&ホイットニー社製F135ターボファンエンジンを単発で装備する。このエンジンはF-22のF119をベースに出力向上を図ったもので、当初F119-PW-611と呼ばれていた。3段のファン、6段の圧縮機、各一段の低圧タービンと高圧タービンという構成はF119から変わっていないが、最大出力はA/B使用時191kNとF119より20%強出力が向上しており、戦闘機用エンジンとしては最大級の推力を有している。そのためF-35は単発機ながら双発のユーロファイター タイフーン(180kN)やF/A-18E/Fスーパーホーネット(195.8kN)に匹敵する推力を有しているのである。 ▲F135-PW-100ターボファンエンジン断面図 バリエーションとしてF-35AがF135-PW-100を、F-35CがF135-PW-400、F-35BがF135-PW-600を搭載する。F135-PW-100とF135-PW-400の仕様はほぼ同じで、F135-PW-400は艦載機用ということで塩害に強い素材が使用されているという。 F135-PW-600は垂直離着陸を実現するため、ロールス・ロイス社が開発した推力偏向機構とリフトファン及び姿勢制御用のロールポストが搭載されている。 ▲F135-PW-600断面図 ゼネラル・エレクトリック&ロールス・ロイス F136 ▲GE社とR.R社の共同開発エンジンF136 F135とF136は互換性が有り、F-15やF-16でPW社のF100とGE社のF110どちらも使用できたように、F-35においてもユーザーがエンジンをを選択出来るようにする計画であった。 ▲F136ターボファンエンジン断面図 F135は戦闘機用エンジンとしては非常に高い推力を有しているが、F-35はステルス性のためウェポンベイの搭載や機内燃料搭載量を重視したため自重が重く、その上開発中に強度不足が判明し度々設計変更を行った事により重量が増加しており、2002年度の時点でF-35Aの目標重量は26500lb(12000kg)だったのだが、現在では29300lb(13300kg)まで増加している。そのためバリエーションの中で一番軽いF-35Aでさえ重量はF-16ブロック40の約1.6倍であり、これは双発のF-15Cより重く、これだけの高推力のエンジンを備えながらアフターバーナーなしでの超音速飛行、いわゆるスーパークルーズ(超音速巡航)が不可能となっている。 ロッキード・マーチン社では第五世代戦闘機の条件の一つとして当初スーパークルーズ能力を挙げており、F-35もスーパークルーズ能力を持つ予定だったようなのだが、現在ではその条件は含まれていない。 F-35B 垂直離着陸システム ▲F-35Bの垂直離着陸システム
▲X-35Bのノズル部。左から0°45°105° レーダーシステム
しかしながらAN/APG-77の探知能力は現代の戦闘機の中で最も高いといってもいいほどの性能を有しており、それをベースとしているAPG-81の探知能力はかなり高度なものである。具体的にはRCS1平方メートルの機体(F/A-18Eやラファールクラス)を約150kmで探知出来るといわれており、機体のステルス性と相まって優れたBVR戦闘能力を発揮するだろう。 また、AESAレーダーの特徴としてアンテナを物理的に動かすこと無く、コンピューターによる各アンテナモジュールの位相制御により、高速での複数目標同時捜索が可能であり、AN/APG-81はテストにおいて前方120°約140kmの範囲内の空対空目標23目標に対し、捜索開始2.5秒の段階で19目標を探知し、 8.8秒で全目標を探知、その後もレーダーは全目標の同時追尾を行っている。 ▲レーダー試験時の試験コンソール画像。 電波のビームを同時に複数発信し、スキャンする。 対地攻撃用として合成開口レーダー(SAR)モードによる高解像度地上画像の生成も可能で、必要ならば範囲を指定して詳細画像の生成も可能である。またGMTI/GMTTモードでは地上移動目標の追尾、識別能力も有しており、目標が戦車なのかトラックなのかなどを自動的に識別し、タッチパネルやHOTASにより手元から容易に目標指示を行うことが出来る。対艦攻撃モードでは海面の状態や艦船のサイズ・方向・移動量などを探知し、ISARを用いることで目標艦船を登録されたデータベースから照合し識別することが可能。 ▲AN/APG-81のSAR画像。移動目標の追尾能力を有する。 これら空対空・空対地モードは同時使用が可能で、コクピットの大型ディスプレイに同時表示が可能である。 マルチモードレーダーと呼ばれる通り、レーダーアンテナによるECM、ESM、通信が可能となっており、統合アヴィオニクスにより従来機では機体各部に分散していたアンテナを統合しアンテナ数を大幅に減らしている。 ▲ノースロップ・グラマン社によるAN/APG-81の日本語版PV EOTS:電子光学照準システム F-35に装備される第二のセンサーが機首下面に取り付けられたAN/AAQ-40 EOTS:Electro-Optical Targeting System(電子光学照準システム)である。このシステムはロッキード・マーチン社とBAEシステムズ社が開発した照準システムであり、第三世代のFLIRとレーザー測距・目標指示装置を一体化し、ステルス性・空力性能を低下させないカヌー型フェアリングに収めたものである。従来機ではこのような目標指示システムは状況に応じて外装式の照準ポッドを搭載するのが一般的だが、攻撃機としての側面が強いF-35ではこのようにシステムを内蔵している。 ▲AN/AAQ-40 EOTS 長距離での目標捕捉能力を持ち、動目標の追尾も可能で、レーザー誘導爆弾やJDAMによる精密爆撃を可能とする。また、IRST機能も備えており空対空の目標探知・捕捉も可能である。EOTSは同社が開発したスナイパーXR照準ポッドをベースとしているため、多くの部品を共有しており、基本的にほぼ同等の性能を有しているという。 ▲EOTSの赤外線画像 EO DAS:電子光学分散開口システム F-35に装備されるセンサーの中でも最も革新的と言えるのが計6台のIRカメラからなるAN/AAQ-37 EO DAS(Electro-Optical Distributed Aperture System)電子光学分散開口システムである。このシステムはノースロップ・グラマン社とBAEシステムズ社が開発した多機能センサーシステムであり、単に従来のミサイル警戒システムを発展させたものではなく、様々な機能を有している。具体的には下記のような機能がある。
▲6台のIRセンサーが機体全周をカバーする このセンサー単体としては中波及び長波赤外線を利用した640×512ピクセルのFPAを有するIRセンサーだが、機体上面・機体下面・機首側面にそれぞれ2台が取り付けられ、360°機体全周をカバーする。各センサーが捉えた画像はコンピュータによってリアルタイムで合成処理され、繋ぎ目の無いシームレスな1枚の画像を生成する。 ▲画像はリアルタイム処理によりシームレスな画像に合成される そして生成された画像はパイロットのHMDのバイザーに視界に重なる形で投影される。つまりパイロットは従来までのようにキャノピー越しに見える景色だけでなく、「足元」や「後方」の視界すらも得ることが出来る事を意味しており、パイロットが下を向けばまるで機体が透けているかのようにフレーム越しの景色見ることが出来るのである。 これによりF-35のパイロットは従来では不可能だった高度な状況認識が可能となり、夜間悪天候時の低空飛行や空母着艦などで特に効果を発揮するだろう。また、F-35Bではコクピットの後ろにリフトファンがあるため、後方視界が得られないという欠点があるが、それもDASにより解消され、垂直着陸時は下方視界が得られるためより安全に着陸できる。 ▲パイロットの視界イメージ。視界に重ねて赤外線画像が投影される ▲左が夜間、右が昼間の映像。ほとんど差違がないことが分かる また、地上のミサイル発射地点の特定の他、地上移動目標の追尾能力も有しており、レーダーやEOTSと連動して即座に攻撃を行うことも可能である。 ▲地上移動目標の追尾も可能 IRST機能としては最大32kmまでの敵航空機・ミサイル等を探知することが可能。EO DASのIRセンサーは固定カメラな為探知距離は一般的なIRSTより低いが、F-35にはIRST機能を有するEOTSも搭載されており、全周囲をカバーするDASの性能は十分すぎるものだと言えよう。 EO DASが捕らえた目標は自動追尾され、兵装と連動しAIM-9XサイドワインダーやASRAAMといったミサイルにより完全オフボアサイトで攻撃をかけることも可能である。 また、味方機との編隊飛行からドッグファイトになった場合などでもDASは敵味方を識別する。 JHMCSやHMSといったヘルメット装着式照準装置とR-73やAIM-9Xといったオフボアサイトに対応したミサイルの登場は非常に広い範囲への攻撃を可能とし、ドッグファイトの在り方を塗り替えるものであったが、それでもパイロットの視界内で敵機を捉える必要があった。F-35のEO DASとAIM-9XやASRAAMの組み合わせはパイロットが敵機を捉える必要すら無く、完全な死角にいる敵機に攻撃を行うことが可能となる。F-35は機体の運動性能に関しては特筆すべき点はないが、EO DASがノースロップ・グラマンの言うような性能を発揮するのならば、有視界戦闘においてF-35は従来機を凌駕する戦闘能力を発揮するだろう。 ▲ノースロップ・グラマン社によるEO DASの日本語版PV F-35のコクピットは今までの戦闘機では見られない先進的なものとなっている。まず目につくのがコクピット正面に配置された20×8インチ(50.8×20.3cm)のタッチパネル式大型カラー液晶ディスプレイである。 パノラミック・コクピット・ディスプレイ(PCD)と呼ばれるこのディスプレイは1280×1024の解像度を持つ10×8インチのアクティブ・マトリックス式液晶パネル二枚で構成されており、各種機体情報や、レーダー、EOTS等のセンサー画像が表示される。その上には20×1インチ(50.8×2.5cm)の細長い副計器板があり、各基本システムの情報をモニターする。 ▲様々な情報を自由に分割配置する事が出来る
F-35に搭載されるHMDSはJHMCSを開発したイスラエルのヴィジョン・システム・インターナショナル社(現エルビットシステムズアメリカ)が開発した全く新しいもので、炭素繊維により非常に軽量かつ、1280×1024の解像度を持つLCDを利用した投影装置を左右それぞれに1基搭載することで40×30°の視野を得ており、従来のものより広視野を実現している。高精度のヘッドトラッキングシステムも搭載し、HUDに表示される各種飛行情報だけでなく各種センサーの赤外線画像なども投影され、特に機体各部に内蔵されたEO DASのセンサーの赤外線画像によりパイロットは昼夜関係なく全周囲の視界を得ることが出来る。 また、レーダー警戒システムやEO DASなどにより得た情報はコンピュータにより処理され、脅威目標がどの方向にあるかを、パイロットは表示システムからだけでなく、立体音響システムにより警告音から把握することが出来る。 現在ではロックウェルコリンズ社とエルビットシステムズアメリカの合弁会社であるロックウェルコリンズESAヴィジョンシステムズ社によって開発が行われており、ヘルメット本体部分をロックウェルコリンズが、暗視カメラ、トラッキングシステム、表示処理装置をエルビットシステムズアメリカが担当している。2015年7月にはナイトビジョンシステムや表示装置を改良した第三世代のモデルがリリースされ、F-35のLRIP(初期低率生産)ロット7からこの第三世代モデルが統合される。なお、米海兵隊のF-35Bは第二世第モデルによりIOC(初期作戦能力)を取得している。 右コンソールにはF-16やF-22と同様のサイドスティック式操縦桿を備えており、感圧式だが僅かに動くようになっている。左コンソールにはスロットルがあり、これらにはそれぞれ20のスイッチを備え、手を離すこなく多くの機能を操作することが可能なHOTASシステムとなっている。 射出座席としてユーロファイター・タイフーンにも採用されているマーチンベイカー社製のMk.16射出座席が搭載されている。また、F-35Bに関してはホバリング中に何らかの理由でリフトファンが停止した場合、墜落までにパイロットが反応出来ないため、ロシアのヤコヴレフ設計局で開発された自動脱出システム(AES)が採用された。このシステムはロシアで200機以上が生産された垂直離着陸機のYak-38に採用されており、過去に19回の自動脱出が行われたが、その全てで脱出に成功している。 データリンクシステムとして空軍及び海軍では一般的なリンク16データリンクシステムを搭載し司令部や同じシステムを搭載するAWACSや艦船、友軍機などと戦術状況をリアルタイムで情報交換することを可能とする。またF-35では発展型多機能データリンク(MADL)と呼ばれる機体間データリンクシステムを有しており、各機体がセンサーにより捉えた情報を共有し、味方機が探知した目標に攻撃するといったことも可能となっている。MADLは従来のリンク16と違い、指向性アンテナと特殊な通信方式により敵の防空圏内であっても逆探知されること無く通信を行うことが可能である。 F-35の電子機器の基幹となるのがICP(Integrated Core Processor:統合型コアプロセッサー)である。ICPは民生品であるモトローラ社のG4 Power PCマイクロプロセッサをベースとして開発することでコストダウンを図っている。ICPの演算処理能力は1秒間に1兆回以上の演算処理が可能な性能を有しているとされ、レーダーや各種センサーの情報を統合処理する。 ICPと機体制御コンピュータ(VMC)及び各アクチュエータ、エンジン制御システム(FADEC)、ディスプレイ制御コンピュータなどの各構成品は、400Mbpsの転送速度を持つMIL-STD-1394B(IEEE 1394b)デジタルデータバスによって接続され、4重にすることで冗長性を持たせている。 搭載兵装 F-35はF-117やF-22など他のステルス機同様に兵装を機体内部のウェポンベイに格納することでステルス性を確保している。F-35では機体下部にウェポンベイを有しており、空対空ミサイル(AMRAAMまたはASRAAM)を2発と、さらに2発の空対空ミサイルか精密誘導爆弾を2発内蔵することが出来る。ちなみにF-35A及びF-35Cにおいては最大で2000ポンド級(約1t)のJDAMを2発内蔵することが可能だが、F-35Bでは垂直離着陸のためのリフトファンを内蔵するため半分の1000ポンド級の兵装までしか内蔵することはできない。 ▲機外にウェポンラックとAIM-9X、ガンポッドを搭載したF35 GAU-22/A 25mmガトリング砲 ▲GAU-22/A 25mm4砲身ガトリング砲 当初ユーロファイターなどにも搭載されているマウザーBK-27リヴォルバーカノンが搭載される予定だったのだが、その後GAU-12/Uに変更され、最終的に重量軽減型のGAU-22/Aを搭載することとなった。発射口はステルス性を損ねないように通常蓋がされており、トリガーを引くと自動的に開いて発射される。 ▲F-35B/Cで運用されるGAU-22/A内蔵ポッド 生産 ブロック1A:基本的な飛行能力を持つのみで、兵装の運用能力を持たないソフトウェアを搭載する機体。初期的な訓練に使用する。LRIP(初期低率生産)ロット1(2機)及びロット2(12機)の機体。 ブロック1B:アヴィオニクスシステムをアップデートし、基本的な飛行訓練に使用可能な機体。フライトエンベロープも向上している。LRIPロット3の機体17機が該当し、イギリス軍向けの機体も含まれている。 ブロック2A:基本的なデータリンクやレーダー、センサーシステムを搭載する機体で、兵装関連のシミュレーション訓練にも使用可能となった。LRIPロット4(32機)、ロット5(35機)が該当。2013年度生産分までは2Aとなる。 ブロック2B/3I:限定的な兵装の運用能力を持たせたもので、内装での最大2発のAMRAAMとGBU-31及びGBU-32JDAM、GBU-12ペイブウェイレーザー誘導爆弾の運用能力を持つ。2Bのコンピュータハードウェアを最新型としたものが3Iと呼ばれる。2014〜2016年度生産のLRIPロット6〜8が該当する。F-35Bはブロック2BでIOC(初期作戦能力)を取得、F-35A及びCはブロック3IにてIOCを得る予定となっている。 ブロック3F:SDDプログラムでの完全なミッション遂行能力を有する機体。MADLを含む完全なデータリンクシステムに加え、EO DASによるセンサー融合、AIM-9XサイドワインダーやGBU-39 SDB、AGM-154JSOW等運用可能となり、AMRAAMの4発内蔵、兵装の外装運用も可能となる。2017年度のロット9以降はこの3Fとなる。 配備 開発計画には参加していないがイスラエルとシンガポールが保全協力パートナーとして出資しており、イスラエルが75機を調達予定である。シンガポールは運用していたA-4SUの老朽化が激しく、F-35を待てずにF-15SGを24機購入したため、しばらくはF-35を購入しないようだ。 配備予定時期としては幾度の遅延があったが今の所、米海兵隊のF-35Bが2015年7月に初期作戦能力(IOC)を取得しアリゾナ州ユマ海兵航空基地の第121海兵戦闘攻撃飛行隊(VMFA-121)にて最初に実戦配備された。その他F-35AのIOC取得時期は2016年末、F-35Cが2018年の予定である。これ以降に他のJSF計画参加国から順次配備されいくと思われる。2013年1月30日には100機目のF-35の組立が開始されており、既にイギリスやオランダなどパートナー国向けの機体もロールアウトしている。 2011年12月20日には日本政府が航空自衛隊のF-4ファントムの後継機としてF-35Aを採用することを決定し、42機を調達することとなった。2012年度予算にて1機あたり102億円(補用部品込み)で4機をFMSにて輸入し2016年度末の納入を予定している。この4機は限定的な戦闘能力を有するブロック3I(LRIPロット8)の予定で、納入後約2年間は米国での訓練に使用されるため、国内配備は2018年以降となる見込み。2013年度予算分からは三菱重工を中心として国内での最終組立てを実施し、さらに三菱重工、石川島播磨重工、三菱電機などにより主翼と後部胴体、尾翼の製造、エンジンの組立ても行い、4割程度が国内企業による生産になる見通しとされる。 難航する開発 米空軍のF-35Aのフライアウェイコスト(1機あたりの価格)は2002年の時点では5000万ドル(当時レートで約65億円)という計画だったが、重量増加のトラブルや開発の遅れにより次第にコストが増加していき、2007年には1.5倍の7500万ドル(当時レートで約90億円)にまで上昇していた。そして米軍における2011年度契約でのF-35Aのフライアウェイコストは1億2156万ドル(当時レートで約100億円)であり、当初の倍以上に上昇している。 また、米国防総省は2010年4月にF-35計画全体でのコストは3兆2825億ドル(当時レートで約307兆円)で、1機あたりの平均コストは1億3360万ドル(当時レートで約125億円)になるとの見通しを示した。2002年には1機あたり6200万ドル(当時レートで約80億円)の見通しだったことを考えるとこちらも2倍以上に上昇している。 なお、最新の2014年度(LRIPロット8)のロッキード・マーチンと米国防総省の契約状況ではF-35Aが9330万ドル、F-35Bは1億50万ドル、F-35Cが1億1110万ドルであり、量産効果による低減が進んでいる。ロッキード・マーチンでは2019年度にはF-35Aのフライアウェイコストは8000万ドルを下回る見込みであるとしている。 スペック
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