F-2はF-1支援戦闘機の後継として開発された航空自衛隊の支援戦闘機(戦闘攻撃機)である。F-16をベースに三菱重工とロッキードマーチンとの共同で開発された。 F-1支援戦闘機の後継として次期支援戦闘機(FS-X)の選定は1984年末から下記の要求を基に調査が開始された。 1.空対艦ミサイルを最大4発携行出来ること。 2.短距離空対空ミサイルを2〜4発携行出来ること。 3.中距離空対空ミサイルを2〜4発携行出来ること。 4.全天候運用能力を有すること。 5.高度な電子戦能力を有すること。 6.対艦攻撃ミッションで450nm(830km)以上の戦闘行動半径を有すること。 調査の結果比較対象としていたF-16、F/A-18、トーネードではいずれも上記6項目を満たすことが出来ないことが分かり、1985年9月には国内各社から「エンジン以外は国内開発が可能」という回答が出されたため、国内開発する方針で話が進められようとしたのだが、海外各社からクレームが付いた。それもそのはずで、これから作るのであれば要求に合わせられるのは当然で、ペーパープランと既存機を比較すること自体が間違いだったと言える。 そこで海外各社に既存機を改修して要求を満たせるかどうかの質問が出され、各社とも可能との回答が寄せられ、同時にアメリカから提示された共同開発と言う案も検討された。結果、1987年に当時貿易摩擦などで苦しんでいたアメリカからの政治的圧力などにより、F-16をベースに共同開発を行う事になったのである。 このイラストはF-2が国内開発される見通しが立っていた頃書かれた想像図のひとつである。三菱重工、川崎重工、富士重工、三菱電機、石川島播磨重工の5社が作り上げた提案書の空力解析画像は一般に公開され、通称5社案と呼ばれた。5社案では単座で双発、カナード翼を持ち、クロースカップルドデルタで二枚の垂直尾翼。今の欧州機を見れば分かる様に、当時はカナード付きデルタ翼機がトレンドであった。
1.先進のアヴィオニクスの搭載 (アクティブ・フェイズド・アレイ・レーダー、ミッション・コンピューター、統合電子戦システム等の搭載) 2.機首形状の変更。 3.強化型キャノピーの採用。 4.主翼の変更(面積の増大、一体成形型複合材の使用)。 5.主翼前縁に電波吸収材の使用。 6.ドラッグシュートの追加。 7.推力増加型エンジンの採用。 8.胴体延長による搭載燃料、アヴィオニクスの強化。 9.垂直カナード翼の追加。 10.胴体・尾翼に先進構造技術の採用。 11.主翼ハードポイントの追加。 開発の過程でF-16のフライ・バイ・ワイヤに関するソースコードが開示されなかったため、国内で開発することになったのだが、運動性能実験研究機T-2CCVによって蓄積された技術を活用しDY(非バンク旋回)とME(機動強化)の2つのモードが追加され、カナード翼装備時と同等の機動性を確保出来るとしてカナード翼は搭載しない事となった。 これらの変更はカナード翼以外は全て実装されており、そのためF-16との共通部分は殆ど無く、見た目が似ていても全く別の機体と言えよう。 ▲T-2に2種のカナード翼を搭載した実験機T-2CCV ▲試験飛行中のXF-2 F-2の大きな特徴として戦闘機としては世界で初めてアクティブ・フェイズド・アレイ・レーダーを搭載したことである。このレーダーは従来の様に機械的にアンテナを動かして走査するのではなく、平面(Allay)に並べた多数の送受信素子を電子的に各素子ごとにタイミングをずらして、発信させることで空間をスキャンする。 機械的に動く部品がない分、故障率が劇的に減少している他、走査とロックオンを同時に行う、多目標を同時に追跡する、一点に対する電波放射が一瞬のため探知されにくい、それに対する受信も対応する一瞬に絞るため、妨害電波に強い、など「敵に発見されず、確実に敵を発見する」ことが可能なレーダーなのである。
また、AAM-4(99式空対空誘導弾)の運用のため、J/APG-1の探知距離の大幅な延伸と同時目標対処能力の向上を図ったJ/APG-2が開発されており、2010年度予算にて1機分の搭載改修が行われることが決定している。 F-2のアビオニクス・システムには三菱電機製のミッションコンピューターを中心にその殆どが国産化されている。このコンピューターはF-16の2倍の処理能力があると言われ、F-2のシステム全体を制御している。 J/ASQ-2統合電子戦システム(IEWS)も三菱電機による開発で、レーダー警戒装置(RWR)を含む電子支援装置(ESM)、電子妨害装置(ECM)、チャフ・フレアディスペンサーを専用の電子戦コントローラ(EWC)で統合し、脅威電波の受信から識別・脅威度評価、対抗策実施までをシステム的に実施する。 航法システムにはリング・レーザー・ジャイロを用いた高精度のINS(慣性航法システム)が搭載されており、整合に要する時間は3分、誤差精度は1時間当たり0.8nm以下と見られる。コクピットの液晶モニターには地図や地形画像をカラー表示することができ、予定飛行ルートを地図上に表示したり、付近の飛行場や航法援助施設のデーターを表示することも出来る。 ▲CFRPを用いた主翼は旋回時などにしなるのが確認出来る 主翼にはCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を採用している。CFRPは従来のアルミ合金等に比べ柔軟で軽量かつ高強度を実現しており、このオールCFRPで一体成形された主翼は世界的にも最先端を行く技術である。主翼面積を25%増加させることで搭載燃料とペイロードの増加に貢献しており、翼面加重低下による機動性の向上も図られている。 エンジンはF110-GE-129IPEターボファンエンジンで、米ゼネラル・エレクトリック社のエンジンを石川島播磨重工がライセンス生産している。このエンジン一基でF-1の二基のエンジンの2倍の推力を持っており国内の航空機用エンジンとしては最大の推力でもある。 ▲F-1支援戦闘機とF-2支援戦闘機 搭載兵装は空対空兵装としてAIM-9Lサイドワインダー、AIM-7Mスパロー、AAM-3(90式空対空誘導弾)が運用可能である。AAM-4(99式空対空誘導弾)については2010年度から改修にて、専用の指令送信機J/ARG-1とAAM-4の射程に対応するためレーダーの性能向上を行い運用可能となる予定で、新型のAAM-5(04式空対空誘導弾)も将来的には配備されていくであろう。 ▲F-2に搭載されたAAM-4とASM-2 対艦兵装としてはASM-1(80式空対艦誘導弾)、ASM-2(93式空対艦誘導弾)、対地兵装としてはGCS-1(91式爆弾用誘導装置)付赤外線誘導爆弾、Mk82通常爆弾、CBU-87/Bクラスター爆弾、J/LAU-3 70mmロケット・ランチャーを搭載可能である。最近では2004年度発注以降の機体に精密誘導爆弾であるJDAMが、2005年度以降発注の機体はJ/AAQ-2 FLIRポッドの運用能力も加わり、対地攻撃能力に関しても期待出来るレベルとなっている。通常爆弾の爆撃精度に関しては目標に見立てたバスに直撃させており、F-1と同じく高い精度を持っている物と考えて良いだろう。 ▲J/AAQ-2 FLIRポッド ▲F-2に搭載されたGBU-38B/B JDAM ▲対艦兵装のF-2。ASM-2とAAM-3を装備している。 F-2は対艦攻撃機としてみれば世界で最も優秀と言っても過言ではない性能を持っているが、マルチロールファイターとしては同時期に開発されたF/A-18E等には劣っており、開発中の不具合の多発による価格の高騰により予定していた1機80億から1機120億円(内約48億はロッキードマーチン)という世界的に見ても非常に高価(F-16ブロック60の2倍、Su-30の4倍)な戦闘機となってしまった。 そのため2004年8月8日には機体容積が小さく今後の発展が難しい、対費用効果が少ない、等の理由によりF-2の調達の打ち切りが決まってしまい、当初130機調達予定であった配備数は98機に削減されてしまった。 それでもF-2は最初に挙げた要求は全て満たしており、全天候運用能力を持ち対艦ミサイルを4発搭載した状態で830kmの戦闘行動半径を持つ戦闘機は世界中探してもF-2だけだろう。そして今後行われるAAM-4の搭載改修によってF-2はマルチロールファイターとして当分は第一線で活躍し続けるであろう。 スペック
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