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F-15Eストライクイーグルはマクダネル・ダグラス社によってF-111の後継機として開発された戦闘爆撃機で、優れた攻撃能力と多くの実績を持つ傑作機である。 制空戦闘機であるF-15を元に開発されているが、機体構造の60%が再設計されており、見た目はほとんど同じでもF-15とは別の機体と言っていいほどである。機体はチタン合金の多用などにより各部が強化され、最大離陸重量は6tも増加している。これにより最大兵装搭載量は11tにまで増加しており、この数値は太平洋戦争で空の要塞といわれたB-29戦略爆撃機よりも2tも多い。 開発経緯としては、F-111の後継の戦闘爆撃機を開発する計画として、複合任務戦闘機計画(DRF)が1981年に開始された。これに対しマクダネル・ダグラス(現ボーイング)社はF-15Bを改造して爆装可能なF-15を開発、一方ゼネラル・ダイナミクス社ではF-16を改造しクランクドアロー翼を採用するなどしたF-16XLを開発した。比較審査の結果、被弾時生存率、兵装搭載量、将来の拡張性、生産コストでの優位性よりマクダネル・ダグラスの案を採用、F-15Eを開発することとなった。1986年に初飛行を行い、1988年に正式に部隊配備された。 ▲取り外されたコンフォーマル・タンク 機体側面にはコンフォーマル・タンク(CFT)が標準搭載されており、これにより戦闘行動半径が約2倍に向上している。またこのタンク自体に片側で6ヶ所のハードポイントが備えられており、多数の爆弾類を搭載することが可能となった。全体としてはハードポイントは18ヶ所にも及び、500ポンドクラスの爆弾なら26発も搭載することが可能である。さらに、その状態でもレールランチャーに空対空ミサイルを搭載することが可能である。 ▲クラスター爆弾を満載したF-15Eの試作機 レーダー&センサー ▲APG-70レーダー。アンテナ表面の10個のアンテナはIFFアンテナ レーダーはF-15のAN/APG-63を改良したAN/APG-70が搭載されている。このAN/APG-70では対地攻撃用に合成開口レーダーモードが追加されており、距離150kmの目標を解像度18m、距離74kmなら解像度5.2mのデジタル地図を瞬時に作成することが可能である。もちろん空対空モードの性能も従来通り優れた性能を持ち、正面120度、約300kmまでの捜索が可能である。APG-63と比べると処理速度は3倍、メモリ容量は10倍に増加している。 ▲AN/APG-82 AESAレーダー 胴体下前方にはLANTIRNポッドが搭載されており、正面から見て左側が航法用のAN/AAQ-13、右側が照準用のAN/AAQ-14である。これにより夜間悪天候時でも高度60m以下での地形追従飛行を可能とし、レーザー誘導爆弾などによる全天候での精密爆撃能力をF-15に与えている。 ▲LANTIRNポッド ロッキード・マーチン社製 また、近年では照準用のAN/AAQ-14は第1世代FLIRであり解像度不足であることから、2005年より第三世代FLIRを持つAN/AAQ-33スナイパーXR先進照準ポッドへの換装が進められている。このポッドは先端が平面ガラスで構成されているのが特徴で、搭載されているFLIRは従来に比べ3-5倍の探知距離を有しているという。 ▲AN/AAQ-33 スナイパーXRポッド コクピットは全席にパイロット、後席に兵装システム士官(WSO)が搭乗する副座型となっている。従来のF-15がアナログ計器がメインであったのに対し、F-15Eでは前席で3つ、後席で4つの多機能CRTディスプレイが搭載され、アナログ計器がほとんど無いグラスコクピットとなった。この多機能ディスプレイにはLANTIRNから得られたFLIR暗視画像や、合成開口レーダーによるデジタル地図などを表示することが可能である。ヘッドアップディスプレイはカイザー・エレクトロニクス社製の広角HUDに換装された。 ▲WSOが搭乗する後席コクピット 航法装置はハニウェルCN-1655A/ASNリング・レーザー・ジャイロ慣性航法装置が搭載されており、発進前のデータ入力時間は30秒、整合は4分という短時間ですむ上、1時間飛行しても最大誤差は約1.5kmと小さい。1995年からはGPS受信機も付加されている。 F-15EにはJTIDS(統合戦術情報配分装置)と呼ばれる装置が搭載されており、リンク16データリンクシステムにより司令部や同じシステムを搭載するAWACSや艦船、友軍機などと戦術状況をリアルタイムでディスプレイに表示及び送信が可能である。また、自機が目標を捕らえていなくても友軍機が捕らえた目標情報から攻撃を行うと行ったことも可能。 操縦システムはF-15では油圧操縦系統にCAS(操縦増強システム)が組み合わされていたが、主翼面積が大きいため乱気流や突風の影響を受けやすく低空での飛行が難しかった。しかしF-15Eでは、LANTIRNの地形追従システムと連動したコンピュータの補助により超低空での自動的な地形回避飛行が可能となった。 自己防衛機材としてはAN/ALQ-135内蔵型ECM、AN/ALQ-128電子戦警報システム、AN/ALR-56レーダー警戒受信機、AN/ALE-45チャフ・フレアディスペンサーを装備する。 ▲フレアを放出するF-15E 兵装等 兵装に関してはF-15と同様に固定兵装としてM61バルカン砲を装備しており、その他空対空ミサイル、空対地ミサイル、通常爆弾、クラスター爆弾、誘導爆弾など、米空軍で使用しているほぼ全ての兵装を搭載することが可能で、GBU-28バンカーバスターやAGM-130などF-15Eのみが運用可能な装備も存在する。 ▲GBU-28バンカーバスターを投下するF-15E 実績・アップデート 配備から1年半後の1991年1月17日に湾岸戦争が勃発し、砂漠の嵐作戦などに参加、イラク軍の戦車やスカッドミサイルを多数撃破した。他にもホバリング中のイラク軍ヘリを空対空ミサイルではなくレーザー誘導爆弾により撃墜している。また、1999年3月のコソボ紛争、2001年のアフガニスタン侵攻、2003年に勃発したイラク戦争など最近の紛争でも対地爆撃において活躍している。 米空軍のF-15Eは2002年からJDAM、JSOW、WCMD(風偏差修正クラスター爆弾)、SDBといったGPS/INS精密誘導兵器を使用するためのアップデートを行い、CRTディスプレイを新型のアクティブマトリックス式液晶ディスプレイに更新している。また、今後レーダーはAPG-82(V)1アクティブ・フェイズド・アレイ・レーダーに換装される予定となっている。 米空軍ではF-15Eを2035年頃まで運用する予定で、しばらくはF-15Eが対地爆撃任務の主役として活躍していく事だろう。 F-15KはF-15Eの韓国仕様機であり、愛称はスラムイーグル。初飛行は2005年3月3日で初回購入の40機(一機墜落したため39機)が配備済みで、さらに21機を追加発注し、計61機を購入する。輸入時の価格は1機あたり約1億300万ドル(約126億円)であった。 F-15Eからの変更点としてはエンジンがGE社製でサムソン・テックウィン社がライセンス生産するF110-STW-129に換装されている。また、レーダーはAN/APG-63(V)1を装備している。これはF-15が装備していたAPG-63にAPG-70の機能を取り入れた改良型で、F-15Kのものは合成開口レーダーモードに加え、地上移動目標の捜索・追尾も可能となっている。 目標指示・航法ポッドとしてLANTERNの発展型である、ロッキード・マーチン社製のタイガー・アイを装備している。このポッドでは第三世代のFLIRが装備されており、解像度、探知距離などが大幅に向上している。また、照準ポッドの上にはF-14Dにも装備されていたAN/AAS-42 IRSTが装備されている。 ▲主翼を展開し射程280kmを誇るSLAM-ER 兵装としてはハープーン対艦ミサイルを改造しスタンドオフ対地・対艦ミサイルとしたAGM-84H SLAM-ERの運用が可能となっており、この機体の愛称の由縁ともなっている。しかし、韓国ではSLAM-ERを誘導するためのデータリンク周波数が既に第三世代携帯電話の通信媒体であるIMT-2000に占有されており、有事の際には電波統制を行い、一部の携帯電話回線を停波させてSLAM-ERに周波数を割り振るという。 その他には統合型ヘルメット装着キューイング・システム(JHMCS)を搭載することでAIM-9Xのオフボアサイト射撃に対応している。 ちなみにアメリカ側はF-15K輸出の際に武器輸出統制法に基づく輸出規制の品目として、爆撃の誤差範囲が平均10mから1mに向上する「精密映像位置提供地形情報(DPPDB)」というソフトウェアをインストールしなかった。韓国側は改善を求めているが未だ難色を示しているという。 F-15SG F-15SGはF-15Eのシンガポール仕様機であり、2005年9月にA-4SUの後継機として12機の導入を決定し、2008年11月3日に初号機がロールアウトした。 基本的にはF-15Kと同様だが、大きな変更点としてF-15Eとしては初めてレーダーにアクティブ・フェイズド・アレイ・レーダーのAN/APG-63(V)3が採用された。ただし、米軍向けに比べ捜索能力などがダウングレードされているとされる。また、LANTIRNポッドの代わりにAN/AAQ-33スナイパーXRを搭載し、その上部にF-15Kと同様のAN/AAS-42 IRSTが搭載されている。エンジンはF110-GE-129の信頼性向上版のF110-GE-129Cを搭載する。 F-15SA F-15SA(Saudi Advanced)はサウジアラビアがF-15部隊近代化計画として導入を決定したF-15Eの改良型である。初号機は2013年2月20日に初飛行した。 サウジアラビアでは1993年に米軍以外では初めてF-15Eを採用し、F-15Sとして72機を導入したが、これはF-15Eのダウングレード型でありレーダー性能が低くLANTIRNも搭載されないなど性能は劣っていた。それに対し、2011年12月に新たに84機の導入が決定されたF-15SAはレーダーや電子戦システム、兵装など最新鋭のものが搭載されており、既存のF-15Eの中では最も性能が高い。また、既存のF-15S 70機もSA仕様に改造することとし、弾薬や予備部品を含めた契約総額は294億ドル(約3兆円)と米国の歴史上最大の防衛装備品海外販売事例となった。この契約が行われた背景には、米国によるイランへの牽制の意味合いが強いとされる。当面は米国で試験が続けられ、2015〜2019年に引き渡し予定となっている。 機体の特徴としては後述するF-15SEと同様にレーダーにアクティブ・フェイズド・アレイ・レーダーのAN/APG-63(V)3を採用し、電子戦システムにはBAEシステムズのDEWS(Digitel Electronic Warfare Suite)が搭載されている。ポッド類はAN/AAQ-33スナイパーXRポッド、AN/AAS-42 IRST、AN/AAQ-13航法ポッドを搭載し、グッドリッチ社製DB-110長距離偵察ポッドも導入する。操縦系統は完全デジタル・フライ・バイ・ワイヤとなっており、統合型ヘルメット装着キューイング・システム(JHMCS)も搭載する。また、MIDS/LVT端末も備え、リンク16による戦術データリンクが使用可能である。兵装類は、AIM-9Xサイドワインダー、AIM-120C-7 AMRAAM、GBU-24ベイブウェイレーザー誘導爆弾、GBU-31B JDAM、CBU-105D/B WCMD風偏差修正クラスター爆弾、AGM-84 Block2ハープーン対艦ミサイル、AGM-88B対レーダーミサイルなどの最新兵装を同時に購入する。また、この機体のみの特徴として主翼外側に空対空ミサイル用ハードポイントが追加され、最大12発の空対空ミサイルを搭載できるようになった。エンジンは信頼性向上型のF110-GE-129IPEを搭載する。 2009年3月17日にボーイング社がF-15Eを発展させたF-15サイレントイーグル(通称F-15SE)を発表した。この機体はF-15Eをベースにステルス性や発展させたアヴィオニクスなどの第五世代戦闘機の能力を付加した輸出用の戦闘機である。2010年7月8日にF-15Eを改造しウェポンベイを搭載したデモンストレーターが初飛行している。 特徴としてはまず兵装をCFTを改造したウェポンベイに内蔵させていることである。このウェポンベイにはAIM-9、AIM-120等の空対空ミサイルや500lbまたは1000lbのJDAM、SDBを搭載可能で、空対空ミサイルは片方に2発づつの計4発、もしくは500lbのJDAMで4発、SDBを8発など搭載量としてはそれほど多くなくF-35と同等といった所である。本来燃料が乗るはずだった部分に兵装を搭載しているため、F-15Eよりも戦闘行動半径が20%減少しているが、それでも元々の航続距離が優れているためF-35よりは20%大きい。 このウェポンベイ付CFTは2.5時間で取り外し可能で、通常のF-15Eと同じCFTに換装すればF-15Eと同様に様々な兵装を運用することが可能となる。 ▲換装により従来通りの運用も可能 外観上のもう一つの大きな変化として、垂直尾翼が外側に15度傾けられている事が挙げられる。F/A-18やF-22、F-35など最近の機体では定番となっているこのV字の尾翼形状はRCSの低減に加え、空力特性の改善により揚力を向上させている。モックアップでは根本の少し上の部分から傾けられているが、風洞実験模型などから実機では根本から傾けられるようである。 ▲外側に傾けられた尾翼 肝心のステルス性については、ウェポンベイやV字の尾翼形状の他、機体のエッジ部分をステルス塗料によってコーティングし、インテイクにはF/A-18E/Fで既に使われているレーダーブロッカーを搭載することで、メーカーによれば正面のステルス性ははF-35に匹敵するという。ただし、地対空レーダー等に対するステルス性はそれほど変化はないらしく、F/A-18E/Fやタイフーン等と同様に正面に特化した、あくまで限定的なステルス性能の付加であると言える。 アヴィオニクスも大幅に強化されており、電子戦システムにはBAEシステムズのDEWS(Digitel Electronic Warfare Suite)が搭載されている。これはレーダー警戒装置、ジャミング電波送信機、ECCM装置等を統合させたもので、レーダーやレーダー警戒機を作動させた状態で敵のレーダーを継続的にジャミングすることが可能である。またコクピットのディスプレイ上には脅威レーダー範囲なども表示させることが可能。 ▲左:AN/APG-63(V)3 アクティブ・フェイズド・アレイ・レーダー 右:DEWSアンテナ及び送受信機、下はチャフ・フレアディスペンサー レーダーはAN/APG-63(V)3アクティブ・フェイズド・アレイ・レーダーを搭載している。このレーダーはF/A-18EのAN/APG-79 AESAレーダーのアンテナ部と電源部を大型化、出力の向上を図ったものをAPG-63(V)1と組み合わせてAPG-63(V)2のソフトウェアを適用した物で、探知距離や信頼性などが向上しており、地上目標に対しては移動目標の探知及び追尾や合成開口レーダーによる高解像度の画像作成などが可能である。 F-15Eと同様のCFT装備時にセンサーとして第三世代の航法ポッド、スナイパーXR先進照準ポッド、IRSTを装備し従来機より高度な攻撃能力を得ている。また、統合型ヘルメット装着キューイング・システム(JHMCS)も搭載し、AIM-9Xに対応する。 メーカーによれば機体は新造の場合交換部品も込みで1機あたり1億ドル(100億円)程度という見積もりを出しているが、インテイクのレーダーブロッカーはオプションになるとのことで、実際はもう少し高くなりそうである。また、機体構造は手を加えていないため、既存のF-15Eから改造することも可能だという。狙っている市場は、韓国やシンガポール、日本、イスラエルやサウジアラビアなどの現在F-15を運用している国で、今の所韓国の第三次F-Xに提案しているという。 スペック
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